休日の夕方、Aさんとその夫は自宅で晩酌を楽しみ、すっかり顔が赤くなっています。そのとき、ふとAさんが「あ、明日の朝食の牛乳を買い忘れた」といいました。そしてAさんは夫に「ちょっとそこまで自転車で牛乳買ってきてよ」とお願いします。
これを夫は快諾し、さっそく自転車で近くのコンビニへ向かいました。しかし、これが最悪な出来事のきっかけとなります。
なんと夫は、コンビニへ向かう道にある暗い交差点で、歩行者と接触事故を起こしてしまったのです。駆けつけた警察官が検査をしたところ、基準値を超えるアルコールが検出され、夫は「自転車の酒気帯び運転」で現行犯逮捕されます。さらに警察の捜査は、自宅で買い物を頼んだAさんにも及ぶことになりました。
「車ではなく自転車だし、頼んだだけなのに…」と動揺するAさん。このままAさんも罪に問われてしまうのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
「車じゃないから」は通用しない!
ー飲酒中の人に自転車の運転を頼む行為は違法ですか?
道路交通法上に直接の処罰規定があるわけではありませんが、刑法上の「教唆(きょうさ)罪」などに問われ、罰せられる可能性が十分にあります。
2024年11月に施行された改正道路交通法により、自転車の「酒気帯び運転」に対する罰則が新設・強化されました。この改正では、運転者本人への処罰に加え、お酒を飲んでいると知りながら自転車を提供した者や、酒類を提供した者に対する罰則も明確化されています。
一方で、お酒を飲んでいる人に「買い物を頼む」「運転を促す」という行為自体を直接処罰する条文は道交法上にはありません。しかし、他人に犯罪を実行する決意をさせる「教唆」や、犯罪を容易にする「ほう助」とみなされ、刑事責任を問われる危険性が高い行為なのです。
ー「車ではないから」という言い訳は通用しますか?
「車ではなく自転車だから」「ちょっと近所のコンビニへ行くだけだから」という言いわけは、法的に一切通用しません。
自転車は道路交通法上、「軽車両」という車両の一種に分類されています。お酒を飲むと判断力や操作性が低下するため、自転車であっても歩行者を巻き込む重大な人身事故を引き起こす危険性が十分にあります。
「車より軽微な乗り物だから大丈夫」という思い込みは通用せず、車の飲酒運転と同様に危険な行為として厳しく扱われます。
ー実際の摘発事例はありますか?
自転車での事例は法改正以降に順次摘発が進んでいる段階ですが、自動車においては、お酒を飲んでいる人に運転を頼んで同乗した側が厳しく処罰された実際の裁判例が存在します。
長崎地裁では、飲酒して車を運転し事故を起こした夫(酒気帯び運転の罪)だけでなく、お酒を飲んでいると知りながら運転を依頼して同乗した妻(教唆の罪)に対しても判決が下されたケースがあります。この裁判で裁判所は、夫だけでなく運転を頼み同乗した妻に対しても、それぞれ「拘禁刑1年、執行猶予3年」の有罪判決を言い渡しました。
Aさんのケースのように同乗していなかったとしても、お酒を飲んでいる人に運転を決意させて事故を起こさせたとなれば、教唆の罪などで責任を問われる可能性はあります。
「悪気はなかった」「日常の夫婦間のやり取りだった」としても、処罰を免れることはできません。お酒が入っている人には絶対に自転車の運転を頼まないという意識を徹底することが大切です。
◆北村真一(きたむら・しんいち) 弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。