ゴールデンウィークやお盆などの連休が近づくと、60代女性のAさんは毎年少し身構えるようになっていました。理由は、2歳の孫を育てるシングルマザーの娘が帰省してくるからです。
娘は実家に帰ってくると、孫の世話をAさんに頼んで、自分は地元の友人と遊びに行ってしまいます。そのためAさんは「孫の顔は見たいけど、正直、体がもつか不安」という複雑な気持ちを抱えていました。
連休初日の早朝に実家に帰ってきた娘は、さっそく友人との予定を次々と入れ始めました。そして夕方から出かけて、戻るのはいつも夜明け近くです。その間にAさんは、食事の準備からお風呂の準備まですべてこなし、さらに孫のお世話まですべてを1人でこなします。
普段はフルタイムで働いているAさんにとって、連休は貴重な休みでした。しかしこれではまったく身体は休まりません。さらに「孫を遊園地に連れていって」と娘に言われれば、費用はAさん持ちで行くことに。送迎を頼まれて迎えに行けば、娘はなかなか現れないため車の中で長時間待たされることもあります。その帰り道、助手席で眠る娘の横顔を見ながらAさんは言葉を失いました。
連休も終盤に差し掛かったころ、Aさんはついに我慢の限界に達し「頼ってばかりいないで少しは手伝ってほしい」と言うと、娘は即座に「そんなこと言うなら、もう帰ってこない」と言い返す始末です。孫に会えなくなるかもしれないけど、連休がいつもこんなことになると考えると、今回ばかりはAさんは折れる気になれません。
Aさんは娘の言う「もう帰ってこない」という言葉に、どう向き合えばいいのでしょうか。こうした親子間のすれ違いについて、心理カウンセラーのふせけいこさんに話を聞きました。
甘えてばかりの娘と限界の母、どうすればいい?
―「もう帰ってこない」という言葉で折れてしまう親は多いと思います。こうした"人質"のような言葉にどう向き合えばいいですか?
「もう帰ってこない」という言葉は強い表現なので、ドキッとしてしまいますよね。実際には本心というより、売り言葉に買い言葉として出ている場合も少なくありません。
怒りは二次感情と言われていて、「悲しい、寂しい、助けてほしい、わかってほしい」などの柔らかい部分が隠れていることが多いです。そこに目を向けられると捉え方も違ってくるかもしれません。
親子関係は近い分、感情がぶつかりやすく極端な言葉も出やすい関係ですが、その奥にあるのは“関係を切りたい”というより“分かってほしい”という気持ちです。お互いにその視点を持てると、関係は少しずつ整っていきます。
―親子関係の中でなぜこうした"甘え"が生じるのでしょうか?
すべての親子関係で甘えが生じるわけではありませんが、今回のようなケースでは「安心できる関係だからこそ甘えが出る」という側面があります。いわば、実家が安全基地のような役割になっている状態です。
特に、シングルマザーとして日々必死に頑張っている娘さんの場合、実家が唯一気を抜ける場所になっている可能性もあります。 その安心感の中で、つい子どもの頃の感覚に戻ってしまうこともあるのかもしれません。
ただその一方で親にも生活があり、体力や時間にも限界があります。安心できる関係だからこそ、その前提が見えにくくなり、結果として負担の偏りが生まれてしまうこともあります。
―孫に会えなくなるリスクを抱えながらも、親が自分を守るための境界線の引き方を教えてください。
親子関係に限らず、「関係を壊したくない」という気持ちが強いほど、ノーを言うことが難しくなることがあります。できることとできないことをはっきり伝えることは、本来、関係を壊すことではなく、関係を調整するためのものです。
だからこそ、こまめに「ここまではできる」「ここからは難しい」と伝え合うことが大切です。お互いの事情や希望を出し合い、調整できる関係は、一方だけが我慢を抱え込む関係になりにくいからですね。
伝えるタイミングは、感情が落ち着いている穏やかな日常の中がおすすめです。境界線とは距離を取ることだけではなく、関係を続けるために必要な“すり合わせ”でもあります。無理を積み重ねる前に小さく調整していくことが、結果的に親子関係を長く安定させることにつながるでしょう。
◆ふせけいこ 心理カウンセラー
ダメな自分を隠して、いい子を演じて生きづらい「外美人の内メンヘラ」な皆さまの、生きづらさや、夫婦・親子関係の悩みを中心にカウンセリングをおこなう。我慢や自分責めから自由になり、“そのままの自分で安心できる人間関係”をつくるサポートをしている。元生きづらい母・ステップファミリー。
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