40代の専業主婦、松井なつきさん(仮名)は、認知症と診断された70代の母親と同居しています。母は日常生活の多くを自分でこなしていますが、一人で外出することがあり、松井さんは道に迷ったり、帰宅できなくなったりしないか不安を感じています。
母は「自分はまだ大丈夫」「歩かないと足腰が弱る」と言い、毎日の散歩を続けています。松井さんは外出を止めるべきか、それとも見守りながら続けてもらうべきか、判断に迷っていました。
認知症の親が外出先で迷った場合に備えて、家族にできることはあるのでしょうか。認知症の親の外出を地域で見守るための支援と、相談先をみていきましょう。
認知症の親の外出を家族だけで見守るのは難しい
警察庁によると、2025年の認知症またはその疑いにより行方不明になった人は1万7345人でした。
一方で、本人の意向を無視して無理に外出を止めようとすると、かえってストレスを与えることがあります。介護する家族が、24時間体制で親の動きを見守り続けることは現実的ではありません。「ちょっと目を離したすきに、出て行ってしまうかもしれない」という緊張感は、家族にとって大きな負担になります。
親の外出が心配になったときの相談先は?
親が一人で外出することが心配になった場合は、地域包括支援センターや市区町村の高齢者支援窓口に相談できます。自治体の見守り支援や、事前にできる備えについて確認してみましょう。
◇地域包括支援センターや市区町村の高齢者支援窓口へ相談
地域包括支援センターは、高齢者の介護や福祉、保健医療などに関する総合相談窓口です。本人の症状や生活状況を伝えることで、利用できる可能性のある支援や相談先について案内を受けられます。
相談時には、親が一人で外出する頻度や時間帯、これまでに道に迷ったことがあるか、本人が携帯電話やGPS機器を利用できるか、利用に抵抗がないかについても伝えましょう。本人が拒否する場合の工夫や、自治体が実施している見守り制度について確認できる場合もあります。
◇自治体独自の制度の活用
自治体によって異なりますが、次のような見守り支援を実施している地域があります。
見守りステッカー
衣服や靴などに付けるシール。QRコードや登録番号などから、家族への連絡につなげる仕組み
登録制度
本人の特徴や連絡先をあらかじめ登録し、行方不明になった場合の捜索に役立てる仕組み
アプリや情報配信
登録した地域住民や協力者に、捜索への協力を依頼する仕組み
地域の協力者による見守り
配送事業者や交通事業者、近隣店舗などが、日常業務の中で異変に気付いた場合、関係機関へつなぐ仕組み
また、GPS端末の貸し出しや、利用料の助成を行っている自治体もあります。制度の名称や対象者、費用、情報の共有先などは自治体によって異なるため、地域包括支援センターや市区町村の高齢者支援窓口で確認が必要です。
なお、親の行方が分からなくなった場合は、家族だけで捜し続けず、早めに警察へ相談しましょう。その際、本人の服装や所持品、最後に確認した場所や時間、よく行く場所などを伝えられるようにしておくとよいでしょう。自治体の事前登録制度を利用している場合は、その登録情報が捜索に活用されることもあります。
親の自由を大切にしながら、安全を守る支援も考えよう
松井さんは地域包括支援センターに相談し、居住する自治体に登録制の見守りステッカー制度があることを知りました。現在は、ステッカーや地域の見守り支援を活用しながら、母親が散歩を続けられるよう支えています。
認知症になったからといって、「外に出たい」という本人の意欲まで一律に制限するわけではありません。しかし、徘徊による事故や帰宅困難のリスクが高い場合は、本人の意欲を尊重しつつも、安全を守るための環境調整が必要です。
大切なのは、家族だけで抱え込まず、本人の意向にも配慮しながら、地域の支援を組み合わせて安全を守ることです。
親の一人での外出に不安を感じたら、地域包括支援センターや市区町村の高齢者支援窓口に相談し、地域で利用できる支援や緊急時の対応を確認しておきましょう。
【出典】
令和7年における行方不明者届受理等の状況/警察庁
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/R07yukuefumeisha.pdf
行方不明を防ぐ・見つける市区町村・地域による取組事例/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001324286.pdf
認知症に関する相談先/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00003.html?utm_source=chatgpt.com
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。