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習近平氏7年ぶり訪朝 狙いは日本海へのアクセス強化か

和田 大樹 和田 大樹

 中国の習近平国家主席は、2026年6月8日から9日にかけて、7年ぶりとなる北朝鮮への公式訪問を行った。平壌で行われた金正恩朝鮮労働党総書記との首脳会談では、両国の伝統的友好や戦略的連携の強化が確認された。

 一部の専門家やメディアの間では、この訪問の裏にある中国側の具体的な思惑に注目が集まっている。その中核と目されているのが、北朝鮮およびロシアの国境に位置する豆満江(中国名・図們江)を経由した、日本海への軍事的・経済的アクセスの強化である。中国にとって日本海への直接的な出口を確保することは長年の悲願であり、今回の訪朝はその足がかりを得るための重要な外交機会であったとの見方が強い。

北朝鮮とロシアからの合意取り付けが不可欠

 現在、中国の東北地方(吉林省や黒竜江省など)は日本海に面しておらず、海へ出るためには南方の渤海や黄海まで大きく迂回するか、あるいはロシアや北朝鮮の港湾を借りる必要がある。中国、北朝鮮、ロシアの3カ国が国境を接する豆満江の下流地域は、河口までの約15キロメートルが北朝鮮とロシアの領土に挟まれており、中国は日本海への直通航路を事実上塞がれた状態にある。そのため、中国の船舶が豆満江を通って日本海へ自由に抜けるためには、北朝鮮とロシアの双方から合意を取り付けることが不可欠な条件となっている。

 この課題に対し、中国は近年、多角的なアプローチを試みてきた。2026年5月に北京で開催された中ロ首脳会談の共同声明においては、豆満江を通じた日本海へのアクセスを巡り、中ロ朝の3カ国による協議を継続していく方針が明記された。ロシア側の同意に目処が立つ中、習近平氏が今回の訪朝で金正恩氏と直接対話に臨んだことは、航路開拓の鍵を握るもう一方の当事者である北朝鮮の協力を強く取り付ける狙いがあったと考えられる。

 中国側が日本海へのアクセス強化にこだわる背景には、経済的利益と安全保障上の戦略という2つの大きな動機が存在する。経済面においては、東北地方の農産物や工業製品を日本海経由で直接、日本の沿岸部や韓国、さらには北米へと輸送するルートが確立されれば、物流コストの大幅な削減と時間短縮が可能になる。これは、中国国内で相対的に開発が遅れている東北地方(旧満州地域)の経済活性化において多大な恩恵をもたらす。さらに、将来的な北極海航路の開拓を見据えた足がかりとしても、この海域の価値は極めて高い。

太平洋へと抜ける第2の海上ルート

 一方で、安全保障面における地政学的意味合いはさらに重い。中国にとって日本海への進出は、有事の際にアメリカやその同盟国によって「第一列島線」が封鎖された場合、太平洋へと抜ける第2の海上ルートを確保することを意味する。これまで中国海軍の艦船が日本海へ展開するには、対馬海峡などを通過せねばならず、日米韓の監視下に置かれることが常であった。しかし、豆満江を経由して日本海に直接出られる拠点を確保できれば、潜水艦や艦船をより隠密かつ迅速に配備することが可能となり、対米抑止力の向上へと直結する。

 この日本海への直接アクセスが実現した場合、日本の防衛体制が受ける衝撃は計り知れない。従来、日本海は対馬海峡、津軽海峡、宗谷海峡という限定された海峡(チョークポイント)に囲まれた半閉鎖海域であり、海上自衛隊や米海軍はこれらの海峡を監視することで、中国海軍の侵入を比較的容易に探知・封鎖することができた。そのため、日本海側に位置する舞鶴(京都府)や大湊(青森県)の自衛隊基地は、主に北朝鮮の弾道ミサイルやロシア海軍への警戒に主眼を置いてきた。

 中国が豆満江を抜けて日本海に常時出入りできるルートを確保すれば、日米の防衛網の隙を突く形で、中国の潜水艦や水上艦艇が日本海国内へダイレクトに進出可能となる。これにより、これまで比較的安全とされていた日本の「裏側(日本海側)」が、台湾有事の懸念に揺れる東シナ海や太平洋側と同様に、中国の軍事的圧力に直接晒される最前線へと一変することになる。特に日本海は平均水深が深く、潜水艦が身を隠すのに最適な海域である。ここに中国の潜水艦が常駐する事態となれば、海上自衛隊は日本海側の警戒監視を抜本的に強化せねばならない。

航路開放のカードは危険すぎる賭け?

 しかし、この構想の実現には不透明な要素も少なくない。ロシアや北朝鮮にとって、中国という圧倒的な大国に日本海への直接的な権益を認めることは、自国の地政学的な優位性を切り崩されるリスクを伴う。そのため、中朝ロの連携が強調される裏側で、両国の中国に対する水面下の警戒感は根強いとされる。北朝鮮にとっては、この航路開放のカードは中国から最大限の経済・軍事支援を引き出すための外交交渉の切り札であり、簡単に全てを明け渡すわけではないとの見方もある。

 習近平氏の今回の訪朝は、単に中朝の結束を誇示する外交的演出の枠を超え、東アジアの安全保障環境と経済地図を塗り替える可能性を秘めた、長期的な戦略の一歩である。日米韓は今後、豆満江を巡る3カ国の実務協議の行方を極めて高い緊張感を持って注視していく必要がある。

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