居酒屋を経営するAさんは、その日、夕方から慌ただしく準備を進めていました。理由は、ある企業の新人歓迎会として20名分のコース料理と店内の貸し切り予約が入っていたからです。他の予約をすべて断って、スタッフも増員して万全の体制で待ち構えていました。
しかし予約時間を30分過ぎても、予約のお客さんは誰1人現れません。幹事のBさんに何度も電話をかけましたが一向に繋がらず、ようやく連絡がついたのは予約から1時間が経過した頃でした。
Bさんは悪びれる様子もなく「あ、急な会議が入っちゃって、キャンセルでお願いします」と言うだけです。Aさんが「貸し切りで準備も終わっています。全額お支払いいただけますか?」と求めると、Bさんは「食べていないのに払うわけがないだろう!」と怒りだし、一方的に電話を切ってしまいました。
このような場合、Aさんは法的にBさんの責任を追及できるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
予約は立派な「法的契約」である
ー電話やネットで行う飲食店の予約は、法的に「契約」とみなされますか?
飲食店側が予約を受け付けた時点で、店側には「料理と席を提供する義務」が生じ、客側には「対価を支払う義務」が生じる契約(飲食契約)が成立します。
たとえ書面を交わしていなくても、口頭やネット上の操作だけで契約は有効です。「急な用事ができた」というのは客側の身勝手な理由であり、一方的なキャンセルは「契約不履行」にあたります。
店側が準備を進めていた以上、発生した損害を賠償する責任が客側には生じるのです。
ー食べていない場合でも、店側は料金の全額を請求しても良いのでしょうか?
Aさんのケースのように料理がすでに完成しているコース予約では、店側は食材費だけでなく、光熱費や人件費、さらには他の客を断ったことによる逸失利益(本来得られたはずの利益)も失っています。
経済産業省などが公表したガイドラインでも、コース予約の無断キャンセルについては「代金の100%」を損害賠償として請求できるとしています。
ーもし「払わない」と言い張られた場合、店側はどのような手段が取れますか?
まずは内容証明郵便で「請求書」を送り、法的措置の検討を正式に伝えます。それでも応じない場合、20名分の代金であれば「少額訴訟」が有効です。
少額訴訟は60万円以下の金銭トラブルを対象とした手続きで、原則1回の審理で判決が出ます。裁判所から呼び出し状が届くだけでも、Bさんのような強気な人物が態度を翻すケースは多いものです。
また最初から行く気がなかったのに予約をしたような悪質なケースでは、「偽計業務妨害罪」などの刑事罰が検討される可能性もあります。
「客が来なかったのだから諦めるしかない」と考える店主の方も多いですが、無断キャンセルは立派な権利侵害です。予約時にキャンセルポリシーを明確に伝え、電話番号だけでなく氏名や会社名を記録しておくなど、毅然とした対応が店を守ることにつながります。
◆北村真一(きたむら・しんいち) 弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。