都内のメーカーに勤務する40代の女性は、仕事のストレスを忘れるため数年前からタブレットで絵を描き始めました。彼女が生み出したのは、自身の理想と弱さを投影したオリジナルキャラクターです。SNSに投稿すると、同世代の女性たちから共感が集まり、そのキャラクターは彼女にとって孤独を埋める大切な「娘」であり、自身の「分身」とも呼べる存在になっていきました。
しかし、ある夜を境に平穏は崩れ去ります。通知欄が異様な速度で埋まり始めたのです。見知らぬアカウントから、キャラクターに対する誹謗中傷が投げつけられました。恐怖を感じてアカウントをブロックしても、相手は即座に新しいIDを作り攻撃を再開します。
事態は言葉の暴力だけに留まりませんでした。相手は彼女のキャラクターの画像を無断で加工した画像を、彼女へリプライとして送りつけ始めたのです。
画面の中で無惨な姿に変えられたキャラクターを見た瞬間、彼女は自分自身の身体が切り裂かれたような激痛と動悸に襲われ、その場に崩れ落ちてしまいました。果たして、この見えない凶器を振るう相手を法的に裁くことはできるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
キャラクターへの罵倒が罪になる場合も
ーキャラクターへの悪口は作者への名誉毀損や侮辱罪になりますか
残念ながら、原則としてキャラクターそのものに対する悪口だけでは、直ちに作者への名誉毀損や侮辱罪は成立しにくいのが現状です。
法律上、名誉毀損や侮辱罪の保護法益(法律が守ろうとする利益)は「人の社会的評価」や「人の名誉感情」です。架空の存在であるキャラクターには人権がないため、キャラクターを「キモい」「嫌い」と罵倒しても、法律上は「物」や「作品」への評価とみなされやすく、作者個人への攻撃とは切り離して考えられる傾向にあります。
ーキャラクターへの誹謗中傷が「作者本人への攻撃」とみなされる場合はありますか
文脈によってはみなされる場合があります。具体的には、VTuberのアバターやエッセイ漫画の自画像のようにキャラクターと作者がほぼ同一視されている状況や、「こんな絵を描く作者は頭がおかしい」など作品への批判を借りて実質的に作者の人格を攻撃していると読める場合などが挙げられます。
今回のように画像を加工して送りつける行為は、単なる悪口を超えて、作者への「脅迫罪」や、著作者人格権(同一性保持権)の侵害にあたる可能性もあります。
ー法的措置とは別に、クリエイターが自身のメンタルを守り、創作活動を続けていくためにできることは何ですか?
法的措置は強力な手段ですが、時間と労力がかかります。創作の火を絶やさないためには自衛手段も重要です。まず徹底すべきは「反応しない」ことです。反論や悲しむ様子を見せると、加害者は承認欲求が満たされエスカレートするため、無機質に「ミュート」または「ブロック」を行い、視界に入れない環境を作ってください。
次に、証拠保全だけしてログアウトすることも有効です。スクリーンショットとURLだけ保存したら、しばらくSNSから離れ、信頼できる友人や家族に管理を任せるのも一つの手です。そして、クローズドなコミュニティを持つことも検討してください。全世界に公開するだけでなく、有料会員限定や、信頼できるファンだけの空間を作り、そこで安心して作品を発表する場所を確保することをお勧めします。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。