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エリート行員が信じて疑わなかった彩り豊かなセカンドライフ 定年退職の翌日から妻の苦痛が始まった【夫婦関係修復カウンセラーが解説】

長澤 芳子 長澤 芳子

長年、地方銀行の支店長として勤め上げた夫の定年退職の日、Aさんは、心からの感謝と安堵で胸がいっぱいでした。これからは夫婦水入らずの時間が増え、彩り豊かな「第二の人生」が始まると信じて疑いません。しかし、その期待は退職からわずか一週間で、音を立てて崩れ去ります。

夫は朝起きてもパジャマを着替えることなく、リビングのソファから動こうとしません。手には常にテレビのリモコンか新聞が握られ、Aさんが掃除機をかけようとすると、舌打ちをする始末です。もちろん家事を手伝う気配もありません。

さらにAさんの生活リズムも、夫の存在によって完全に乱されます。長年の友人とランチの約束をし身支度を整えていると、リビングから「俺の昼飯はどうするんだ」という不満そうな声が飛んできます。

楽しみにしていた友人との時間も趣味に没頭する喜びも、夫という名の「監視官」によって次々と奪われていくような気分です。Aさんはこの息苦しい生活から抜け出せるのでしょうか。夫婦関係修復カウンセリング専門行政書士の木下雅子さんに話を聞きました。

濡れ落ち葉状態の夫を導く「ありがとう」

ー退職後に家事を何もしなくなる夫がいるのはなぜなのでしょうか

このようになってしまう人は、現役時代に仕事中心の生活を送ってきた人が多い印象です。会社での役割や肩書がアイデンティティそのものであったため、定年退職によってそれを失うと、急に何をすればいいのか分からなくなってしまうのでしょう。

また、「長年家族のために働いてきたのだから、これからも妻が感謝し、ずっと身の回りの世話をしてくれるのが当然だ」という無意識の期待感を抱いているかもしれません。妻が担ってきた家事労働の大変さを全く理解していないというのも大きいと考えます。

ー夫の存在が、妻にとってストレスになってしまうのはなぜですか

これまで守られてきた「自分自身の生活ペースが乱される」ことが最大の理由ではないでしょうか。

夫が仕事に行っていた日中の時間は、妻にとって家事を自分の段取りで進めたり、友人と会ったり、趣味に没頭したりできる、いわば「自分の城」のような時間でした。しかし、夫が常に家にいることで、その自由が奪われてしまいます。

「俺の昼飯は?」と聞かれることは、単に食事の準備という家事が一つ増えるだけではありません。「夫の都合に自分の時間を合わせなければならない」という精神的な束縛感を生み出します。自分のペースで行動できなくなり、常に夫の機嫌をうかがわなければならない状況は、日々の大きなストレスとなってしまいます。

ー妻が、ストレスを溜め込まないための工夫はありますか

「今後も、互いに健康で暮らすには、夫にも自分のことは自分でできるようになってもらう必要がある」と意識を切り替えましょう。

そのうえで、自分の時間を守るため、まず予定はカレンダーで共有し、外出することを事前に伝えましょう。夫には「食後の自分の食器をシンクに持って行って水につける」など、誰でもできる簡単なことからお願いするのがコツです。

少しでも協力してくれたら「ありがとう」と感謝を伝えることで、夫の自主性を育てます。また、食事は完璧を目指さず、外食や市販品も上手に活用しましょう。一人で抱え込まず、ストレスを溜めない工夫が大切です。

無理に夫を変えようとしても、余計にこじれるだけです。夫をうまく導き、少しずつできることを増やしていく姿勢が、結果的に、ストレスの削減につながると考えます。

◆木下雅子(きのした・まさこ)行政書士、心理カウンセラー
大阪府高槻市を拠点に「夫婦関係修復カウンセリング」を主業務として活動。「法」と「心」の両面から、顧客を支えている。

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