がんで余命宣告を受けながらも創業を目指す女性がいる。中野沙江子さん(47)=岡山市北区。うつを乗り越え、音楽専門学校の講師として生徒の悩みにも寄り添ってきた経験を生かしてカウンセリングとコーチングに挑む。「しんどい中でも幸せは探せばたくさんあることを伝えたい」と意気込んでいる。
昨年末、スキルス胃がんのステージ4と診断され、長くて余命1年と宣告された。「変えられることではないし、不思議と冷静に受け止められた」のは、これまでも多くの困難に直面してきたからだという。
10~20代のころは両親との関係に悩み、自身の居場所がなくて過食やうつに苦しんだ。中学・高校時代は親の期待に応えなくてはというプレッシャーに押しつぶされそうになった。
前向きになれたのはロックバンド・ブルーハーツの曲との出会い。「自分らしく生きよう」というメッセージに背中を押され、親の反対を押し切って大阪の音楽専門学校へ進学した。ミュージシャンになる夢はかなわなかったが、自分を救ってくれた音楽に関わる仕事をしたいと音楽専門学校講師になり、約15年にわたって音楽を教えながら生徒の悩み相談に乗ってきた。
「自分を好きになれない」「兄がひきこもりになっている」「母が精神的に不安定」…。さまざまな相談内容に「私自身も悩み続けてきたから放っておけず、自然と共感して話し相手になれた」と振り返る。
がんと診断されて岡山市に戻り、カウンセリングとコーチングで創業しようと決めた。準備を兼ねて7月26日にカフェで開いた交流会では3人の相談に乗った。自身ががんで激しい腹痛に襲われることや、抗がん剤で髪の毛が抜けるといった話を打ち明けながら一人一人の話に耳を傾け、言葉をかけた。そして創業への思いを一層強くした。
「人は物の考え方や捉え方次第で幸せにも不幸にもなる。私のような状況でも前向きに生きられる姿を見てもらい、一歩を踏み出すきっかけになれたら」