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「イグ・ノーベル賞」受賞 京大名誉教授、子ども時代は塾に通わず 夢中になった趣味や勉強法…大人になって役立った

金井 かおる 金井 かおる
京都大学の廣岡博之名誉教授(京都市西京区、京都大学ローム記念館)
京都大学の廣岡博之名誉教授(京都市西京区、京都大学ローム記念館)

 シマウマはなぜ縞模様なのかーー。ダーウィンの時代からの謎に着想を得た研究が、ユニークな科学研究などに贈られる「イグ・ノーベル賞」の2025年生物学賞を受賞した。面白いだけでなく、産業に役立つ可能性を秘めていると世界から注目を集めている。

畜産農家の悩み 大胆アイデアで解消へ

 受賞したのは、京都大学農学研究科等の共同研究グループ。メンバーは農業・食品産業技術総合研究機構の児嶋朋貴研究員(京都大学農学研究科2010年修了、研究当時は愛知県農業総合試験場主任)、大石風人農学研究科准教授、廣岡博之名誉教授ら。

 「牛にシマウマのような縞模様を人為的に施すことで吸血昆虫忌避効果があることを実証」に関する研究が評価された。

 牛にとって吸血昆虫は疫病を媒介する害虫のため、たかられると追い払うための行動を取り、生産性が低下するといわれている。

 畜産農家から吸血昆虫の被害が大きいと聞いた研究グループは、シマウマの縞模様の機能は吸血昆虫忌避機能のためという有力な仮説に着目。黒毛和牛の体に白色の縞模様をペイントし「シマウシ」に見立て、アブなどの吸血昆虫が寄りつく数を調べた。

 ペイントなし、黒い牛に黒色ペイントの3パターンで比較した結果、白いペイントの牛には付着する虫の数が半減。牛が虫を避けようとする行動も4分の1ほどに減少した。

 今回の研究結果は、シマウマの縞模様は吸血昆虫忌避機能のためという仮説を後押しし、さらに殺虫剤を使用しない虫対策の可能性を示唆した。

受賞は「ノーベル賞より難しいかも」

 研究メンバーの一人、京都大学の廣岡博之名誉教授(67)に話を聞いた。

 廣岡名誉教授は受賞を知り「正直にすごくうれしかったし、びっくりしました」。というのも、論文が学術雑誌「PLoS ONE」に掲載されたのは2019年のこと。発表当時、アメリカでは大手新聞社などを中心に話題になったが、日本での反応はそれほどでもなかったからだ。

 膨大な数の論文の中から選ばれたことは、「狙って取れる賞ではない。多分、ノーベル賞より取るのは難しいかもしれない」とし、「産業に役立ち、生物学の謎にチャレンジするロマンがある。この2つが含まれているのがこの研究のいいところ」と力を込めた。

少年時代「しょうがないなと思い勉強」

 廣岡名誉教授は子どもの頃、虫取りに明け暮れる日々を送っていたが、1970年代のはじめ、農薬の影響で虫がいなくなり、「虫取りができなくなったため、しょうがないなと思い勉強を始めました」。

 小学生の頃にはすでに研究者の夢が芽生えた。目指した理由は「手先が不器用だったし、人と違うところもあったので、会社員にはなれないだろうな、務まらないんちゃうかなって」。

 父親は自学自習の方針で、塾には通わせてもらえなかったため、中高は地元の公立校で学びながら、自力で勉強。「参考書を買ってきて、自分で計画を立てて、自主的にやりました」

 一浪中は予備校通いを許され、1982年に京都大学農学部畜産学科に入学。「昆虫をやりたかったけど入試の点数が足りなくて畜産学の道へ。専門は和牛の研究をずっと。和牛は世界一の牛です。もともと私は和牛肉は大好きで、昔からよく食べていました。だから好きなものを対象に研究してきたので、趣味と兼ねてるようなもんなんです」。修士、博士課程では、マレーシアなど熱帯地域での畜産についても研究した。

「研究者って芸術家に近い」

 研究者になり、子ども時代に熱中したもう一つの趣味、将棋が役立っていることに気付いた。

 「将棋ってまず型を覚えないといけない。将棋の本を買って戦法を研究した。研究も似たところがあって、論文を読んで、実験や分析を行う。将棋を覚えたことは研究の助けになりました」

 また、中高時代に好きだった古文は、古い文献を読み解く上で役立ったといい、「例えば日本で和牛は家畜としてどう飼育されていたかとか、調べ始めると古文の知識が大事になってくるんですよ」。

 研究一筋の人生。研究者に必要なものは。

 「実はね、すごく受験勉強が得意で、知識がいっぱいあってもね、研究ってできないんですよ。創造する力、創造性も必要です。研究者って芸術家に近いって思ってるんです。自分でテーマを考え、アイデアを出し、答えのないものに向かっていく姿勢。面白い発想を生み出すのも、その人の力。小学生の時に虫取りに打ち込んだことや、自分で計画を立てて自主的に勉強したことは、研究者としての重要な要素だったなと今、振り返って思います」

 「もう一つ、研究で大事なのは、常に考えておくことなんですよ。何かの現象が起こった時に、変化に気付く。なんで気付くかっていうと、ずっと日頃から考えてるからなんですよ。ボーとしてたらね、気付けない」

 2024年、京都大学を定年退職。退職後はキャンパス内で研究室を借り、これまでの和牛の研究に加えて、昆虫生態学研究室の先生や学生とともに、少年時代からの夢だった昆虫学の研究を始めた。「社会性昆虫のシロアリの研究をやってます。まだまだ駆け出しです。社会性昆虫の世界は人間社会をイメージさせて面白い。畜産分野でやってきたものとの違いも面白い」と目を輝かせる。

 昼食には家から持参した妻の愛妻弁当を食べ、食後は大学の敷地内を散歩。その途中には毎日立ち寄る図書館が。京都市内が見下ろせるソファー席がお気に入りの場所なのだとか。

 「研究が好きで、講義も会議も好きでした。イグ・ノーベル賞はごほうびをもらえた気持ちです」

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