直談判して“推し”の本を出版。予約段階でランキング1位を獲得した。
最強の殺し屋にドはまり
『ベイビーわるきゅーれ』シリーズで日本映画の新たな地平を切り開いた、阪元裕吾監督。そんな俊英に初めてフォーカスを当てた書籍『阪元裕吾監督&脚本作品2016-2025 コンプリートブック』が発売中だ。
企画・編集を担当したのは、イカロス出版で働く編集者の齋藤明日香さん。乗り物、ミリタリー、レスキュー、ライフスタイル関連の書籍を扱う同社での齋藤さんの普段の仕事は、語学系季刊誌の編集だという。
そんな専門的かつお堅いジャンルを手掛けている人が、どうして殺し屋バイオレンスアクションを得意とする監督の書籍を、しかも直談判して一から作り上げてしまったのか?
齋藤さんを突き動かしたのは、“推し”に対する愛とリスペクトの念だった。
阪元監督作との出会いは、殺し屋の悲喜こもごもを追ったフェイクドキュメンタリー映画『最強殺し屋伝説国岡[完全版]』。劇場公開時に鑑賞し、「こんな風に“殺し屋”でモキュメンタリー、かつアクション映画が日本で作れるのか!と衝撃を受けました。この監督はずっとチェックしていかねば…と思ったのが阪元監督作品との初めての出会いです」
テレビ東京系列でドラマ化もされた阪元監督の代表作『ベイビーわるきゅーれ』シリーズも、Netflix配信時に日本ランキングで1位になった『黄龍の村』も捨てがたい。だが齋藤さんは『最強殺し屋伝説国岡[完全版]』で俳優・伊能昌幸が演じた殺し屋・国岡の雄姿にドはまり。イベントや直販等でしか購入できないBlu-ray『最強殺し屋伝説国岡 外伝 国岡ツアーズ大阪編 蘇る金のドラゴン・なにわアサシンの逆襲』も、もちろん即買いした。
ファンイベント参加で確信
時を同じくして、社内で若手編集者を対象にした新企画の募集がスタートした。「現在の担当分野に関わらず、自由に企画を考案して良い」という趣旨を目にした齋藤さんの脳裏に、阪元監督がクリエイトした拳銃を構える殺し屋・国岡の姿が浮かび上がったのは言うまでもない。
だが齋藤さんは躊躇した。“映画監督=黒澤明的昭和の近寄りがたい文化人”というイメージを勝手に抱いていたために正直ビビったのだ。しかも阪元監督はバイオレンスアクションを得意とする人。怖い人かもしれないと。しかしそれもすぐに杞憂に終わる。
「ちょうどその頃に伊能さんや阪元監督らとお話ができるファンイベントに参加しまして、参加者と気さくに交流する阪元監督の人柄を生で見て、本を出したいという気持ちが高まりました。特に私は『国岡』シリーズが好きなので、動機の1つに国岡さんの雄姿を書籍でも伝えたい!というミーハーな気持ちも多少ありました」と照れる。
その場で名刺を渡し、すぐにDMで直談判。阪元監督から「とてもうれしいのでぜひ進めてほしい」と快諾を得たことで、齋藤さん初の“推し”事が始まった。書籍の方向性をすり合わせ、監督と縁の深い俳優陣へのインタビューや監督へのロングインタビューを収録。商業監督デビュー前も含めて2016年から2025年上半期までに手がけた主要な監督・脚本作品についての監督自身による解説に加え、『ベイビーわるきゅーれ』『黄龍の村』のオリジナル脚本も全文掲載した。
「阪元監督による自作解説は、とてつもなくおもしろい原稿が来てテンションが上がりました。当時の生活なども振り返りつつ、映画のテーマや撮影の苦労などについてかなり赤裸々に書いてくださっています。学生時代から商業映画監督としてデビューされて、ヒット作を手がけられて…という阪元監督のキャリアの軌跡としても読めるので、ファンはもちろんの事、映画業界を目指している若い方にもぜひ読んでいただきたいです。ちなみに国岡さん役の伊能さんに銃器解説を書いていただくこともできて、そこにも感無量です」
ベストセラーランキング1位の快挙
インタビュー収録は阪元監督作に詳しいライターの協力を得たものの、権利元各社への許可取りや編集作業はほぼ一人でこなし、細部にまでこだわった。“推し”の魅力を最大限引き出す内容にすべく、当初の予定を超えて出版までに1年以上の時間が掛かってしまったが、予約開始数日でAmazon書籍の「映画/ノンフィクション」「映画/エンターテインメント」などの複数のジャンルで1位を獲得した。
「書籍全体でもかなり上位になり、大きな反響をいただくことができました。発売後はSNSで感想を投稿してくださる方も多くて、阪元作品ファンの熱量を感じます。阪元監督からも、発売記念イベントの際に『脚本を読んでもらえるのが嬉しい』『エッセイ的なものを書くのが夢だったので、作品解説でそれが叶った』と言っていただけて、出版が出来て本当に良かったと思いました。東京と大阪での発売イベントにも多くの方に来ていただけて、大盛り上がりでした」
そんな“推し”監督・阪元裕吾待望の次回作『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]』(10月10日公開)は、齋藤さんを突き動かした『最強殺し屋伝説国岡』シリーズの最新作だ。
「書籍にも『特報』という形で同作の紹介ページが入っていますので、ぜひチェックしてください!今後も長く売れる本になるよう、プロモーションを続けていきたいと思います」と重版に向けての意気込み十分。齋藤さんの“推し”事はまだ終わらない。