tl_bnr_land

戦争を生きた祖父の言葉が原点に 映画「風が通り抜ける道」で田中壱征監督が伝えたいこと 全国をめぐって撮影…命の重みと平和への願いを伝える

まいどなニュース まいどなニュース

人間愛や人生の機微をテーマにした作品で知られる映画監督の田中壱征さん(51)が手がけた「風が通り抜ける道」(2023年完成)のプレミアム上映会が都内で開催され、平和への願いを伝えた。作品の背景にあるのは騎兵隊だった祖父から受け継いだ思い。「風道」は沖縄県後援映画ながら全国各地で撮影され「愛という風が日本列島に縦断するよう」に製作したものだ。

 ゆかりのある足立区で上映

沖縄本土復帰50年を記念して制作された映画「風が通り抜ける道」がプレミアム上映されたのは終戦記念日を前にした8月11日のこと。東京都足立区の梅島学習センターホールで開催された。

今回、田中監督が足立区にこだわったのには理由があった。2歳で両親が他界。その後、千葉県で母方の祖父母に育てられた。その後、祖父母も亡くなり、住む家もお金もないというどん底の生活を送った場所でもあったからだ。やがて20代を迎え、バックパッカーとして海外生活を送ることになったが、足立区はそれ以前の多感な一時期を過ごした、いわば原点のような場所でもある。

「作品の背景にあるのは私の生き様そのもの。インターネットのない時代に海外に飛び出し、様々な経験をし、自分のことや自分のルーツも深く考えるようになった。いまでも海外も拠点に生活をしており、その経験が作品にいかされています」

撮影場所は北海道から沖縄まで

映画は比嘉莉乃、山田邦子、具志堅用高、大林素子、SHINOBU(元DA PUMP)さんら沖縄出身者や沖縄好きの俳優が出演。2022年に製作をスタートしている。撮影地は北から北海道、青森、秋田、千葉、東京、静岡、愛知、岐阜、さらに大阪、福岡、佐賀、熊本、沖縄本島、沖縄離島と、多岐に渡る。

各地の自治体やフイルムコミッションと連携を取りながら、日本列島に「愛という風が縦断するよう」に意図して製作しており、田中監督の日本への愛が作品に描かれている。

23年4月に沖縄国際映画祭正式出品。5月にはフランス カンヌで開催された「SUPER STAR AWARDS CANNES2023」で、監督個人が「BEST  FILM AWARDS」を受賞した。カンヌ国際映画祭では正式出品作品まではいたらなかったものの、映画祭公式アテンドホテル「ホテルバリエール ル グレイ ダルビオン」で特別上映され、田中監督もレッドカーペットを歩いた。その模様はフランスの国営TVを通して、世界にも放送されている。

さらに、国内ではイオンシネマ系列で一般劇場公開となり、東京・大阪では、実写版映画としては珍しく、ロングラン上映を果たしている。

この日、舞台挨拶に立った田中監督は「この映画は、防衛省のご協力を得て、第一空挺団の習志野基地でも撮影をしております。第二次世界大戦中、命を賭けて任務を遂行した神風特攻隊の精神を唯一、今でも継いでいる陸上自衛隊 第一空挺団でどうしても本撮影をしたかったのです」と切り出し、熱弁を振るった。

「お国関係抜きに、命を落としていった先人たちの分まで、今を生きている私たちは前を向いて、一所懸命に生きていかないといかない。戦争、暴力がない世界にしていかなければなりません」

騎兵隊だった祖父との思い出

その背景には戦時中に騎兵隊として出兵した祖父の存在が大きく、その後、世界の多くの方々と心と心で交流をして来た田中監督ならではの世界観があった。

「祖父は撃たれながらも奇跡的に帰国ができたからいまの私がいる」

そんな祖父には大変厳しく育てられたといい、小3のとき体験したエピソードをシナリオ風に明かしてくれた。

ある日、群馬の温泉旅行から帰って来た祖父から「お土産だ!!」と、大きな声が。好きな温泉まんじゅうかと思いきや、それは大きな石に「闘志」と書かれている置物だった。

テーブルの上に置かれ、即座に座りなさいと。

「いいか、お前は、この先、いずれ一人になってしまう。このじいちゃんも、いま、お勝手にいるばあちゃんも死んだら、身内で、お前のことを助けてくれる人は誰もいなくなる。年には敵わないから、そこはごめんな。だから、ちゃんと、お前が生きていけるように、いつまでも、闘志の気持ちを忘れるな!!

いいか、闘志は、他人ではなく、自分自身に対してだ!!

自分に負けてはおしまい!!

だから、一切、お前を甘やかさないし、これからも厳しく育てていく!!

お前には出来る!! 信じているから!!」

当時の田中監督には言葉の意味がまったく理解ができなかったそうだが、祖父はその後も死ぬまで年に一度、耳にタコができるぐらい伝えていたという。

「祖父が天国に旅立って、早いもので33年目となりますが、今となっては、言葉に言い表せない程、感謝しかない気持ちです。両親や住む家やお金がない自分にとって、どんな試練や環境が訪れたとしてもマイナス、ゼロから確実に立ち上がって行く闘志精神は幼いころから育まれていたんだと思います」

次回作もヒューマンな物語

現在はアメリカ、フランス、インドに拠点を持ち、一年の大半を太平洋、ユーラシア大陸を行き来しているという田中監督はあいさつの最後に「終戦80周年。8月15日の日を決して忘れてはいけない。そして、青春時代を過ごした足立区で、今回プレミアム上映ができたこと、新たに原点に戻れたような気がします。これまでの人生で関わっていただいた方々に深く、深く感謝致します」と結んだ。

今後は新作完成映画を2つ発表する。そのひとつが東京湾を1周する中で人々の出会いや別れを伝える映画「TOKYO LOSS2・・雨のち晴れの予定」(松本明子、モト冬樹、いしだ壱成、奥山佳恵、酒井敏也さんら出演)だ。

そして、もうひとつが戊辰戦争の激戦地となった会津の「過去」「今」「未来」を描く映画「ひとつに会える街」(大林素子、三田佳子、松平保久さんら出演)で、2026年の一般劇場公開を予定している。

まいどなの求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース