現在は仕事の現場でもほぼデジタルが当たり前ですが、20年ほど前まではまだまだフィルムカメラが優勢でした。そんなフィルムカメラの中でも「大判」に分類される4インチ×5インチサイズのフィルム、通称4×5(しのご)と呼ばれるカメラを使ってみる機会があり、撮影に参加してきました。
そもそも大判カメラとは?
フィルムカメラの画質(解像度)は、もちろんフィルムそのものの性能に左右されますが、使うフィルムの質が同じであれば、そのフィルムの大きさ、面積が大きい方が有利なのは言うまでもありません。面積当たりの情報量が同じだったら、広い方がよりたくさんの情報が入りますもんね。
一般的な35mm(ライカ判)フィルムの場合、36mm×24mmのサイズでした。いまのデジタルカメラでも「フルサイズ」と呼ばれるものは、これが基本になっています。それより大きなフィルムとしては、一般的なものとして幅が60mmのブローニー判があります。これは中判と呼ばれていて、フィルム自体の横幅は60mmですが、カメラによって縦を45mmで使う645、60mmで使う6×6、70mmの6×7、90mmの6×9といろいろなバリエーションがあります。
そして、それより大きな大判カメラの代表が4×5です。4インチ×5インチ、つまり約100mm×125mm、葉書よりも少し小さめくらいのサイズのフィルムです。このサイズのフィルムになると、もはや巻いてません。シート状です。
取り扱いにはいろいろ中判までとは違う難しさはありますが、きちんと撮れば圧倒的な高画質(ふすま一枚分くらいに引き延ばしても粒子が荒れない)が得られるのです。
実際、風景写真家の中にはこの巨大なカメラを持って絶景ポイントに出かけていき、フィルム代と現像代で「シャッター一押し○千円」という(心の面で)重いシャッターを切っておられる方もいらっしゃいますが、その作品を拝見するとやっぱりものすごい精緻さと迫力に圧倒されるのです。
そんな大判カメラを使ってみようという、貴重な体験ができる講座を開いている写真スタジオがあったので、参加してみました。
4×5の大判カメラでスタジオ撮影を体験
兵庫県尼崎市にある写真スタジオ「フォトハウス」。カメラマンの堀俊也さんは、スマートフォンを使ってピンホールカメラの実験ができるキット「ANBAKO」を開発したり、自動車(ランドローバー・ディフェンダー)を暗箱に見立ててピンホール撮影をするなど、カメラの原理をわかりやすく伝える試みをいろいろされています。今回も「大人のための自由研究」というタイトルで大判カメラの使い方と実際の撮影をやってみるというイベントです。
さて、大判カメラ。とにかくでかいです。むかし、観光地とかで集合写真を撮ってくれる業者さんが使っていた、あれです。獅子舞のように布を被って撮ってましたが、まさに今回あれをするのです。
4×5のフィルムは、ロールではなく平面のシート状です。事前の準備として、このフィルムを光を通さない箱(ホルダー)に入れておかなければなりません。この作業は真っ暗な暗室で行います。ここは今回、堀さんが準備してくださいました。1つのホルダーには表と裏、2枚のフィルムが入ります。つまりこのホルダー1つで2枚しか撮れないのですね。
次に、カメラの調整をします。今回は各自、持参した小物を撮ります。筆者はその時、同い年のライカM2を持っていたので、それを撮ることにしました。重たい大判カメラを支えるため、大きな三脚を使用します。慎重に角度を調節してフレーミングをして、続いてピントを合わせます。
磨りガラスの合焦面にルーペを当てて、ピントが来ているかどうかを見ながらダイヤルを回してレンズを前後させます。上下左右が反転した、暗い像を見ながらの作業です。こういうことをしていると、カメラというのは箱とレンズで成り立っている、というものすごくシンプルでプリミティブな事柄にいまさらながら気付かされます。
絞りは最大のf64、大型のストロボが「ばんっ」と光って、撮影は終了です。
後日、現像済みのフィルムとコンタクトプリント(フィルムサイズそのままで焼き付けられた写真)が送られてきました。当然ながら、おそろしくシャープです。いつかこれをふすま一枚分くらいに引き延ばしてみたいなあ、なんて思う今日この頃。4×5サイズのフィルムは、そんな怪しい誘惑をしてくるのです。写真好きの皆さん、ぜひ一度機会があれば大判カメラに触れてみるのはいかがでしょうか。