食品工場でライン作業を担当しているAさんは、入社して1年目の新人です。入社して半年が過ぎ、仕事にも慣れてきて周囲からも評価されるようになってきました。そんなAさんは、ここ1か月ほど同じ職場で働く主任からの無茶な要求に悩まされています。
以前は真面目な態度で働いていた主任ですが、どうも恋人と別れてしまってからすっかりやる気を失ってしまったようです。就業開始時間に遅れて出勤することが増え、その度にAさんに対してタイムカードを代わりに打刻するように要求し始めたのです。
さすがにAさんも主任に抗議をするものの「たかだか数分程度のことでしょ?」と言って、相手にしません。下手に揉め事をしたくないAさんは、渋々主任の指示に従っていました。今のところ会社にはバレていないようなのですが、見つかったら主任だけでなくAさんも罰せられるのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに詳しく聞きました。
ータイムカードの打刻を代わりにすると罰せられるのでしょうか
主任から強制されたとはいえ、他人のタイムカードを代わりに打刻することは問題です。本来、タイムカードは実際に働いた時間を客観的な証拠として残すためのものです。この場合は働いていない時間を働いていたように見せる虚偽の申告をおこなったことになるので、会社に損害を与える行為となってしまいます。
この行為は会社を騙して金銭を多めに搾取する行為なので、刑法246条の詐欺罪に該当すると考えられます。よってAさんは詐欺をほう助したと見られかねません。
過去の判例では「タイムカードを他人に打刻させた場合は解雇する」と注意書きを掲示されていたにも関わらず、他人のタイムカードを代わりに打刻した従業員が懲戒解雇となったことが有効とされています(最高裁判所昭和42年3月2日判決)。
したがってAさんは、主任の指示を断って会社に相談するべきであったと考えます。
ータイムカードを使った不正にはほかにどのようなものがありますか
例えば残業を禁止している企業で、タイムカードを打刻してから残業をするというケースがあります。本人の意思か、会社からの指示かにもよりますが、いずれもサービス残業となってしまう不正です。
また、新型コロナ雇用調整助成金を不正に受給していた企業のケースでは、タイムカードを改ざんして、実際は働いていない従業員が働いていたと申請していたことがありました。
このようにタイムカードの不正は、従業員側も企業側も行えてしまうという問題があるのです。
―タイムカードの不正を防ぐ方法はあるのでしょうか
紙のタイムカードを辞めて、電子打刻を採用している企業が増えています。電子打刻はスマホや社員証と連動させて、本人しか打刻できない仕組みです。また、一度打刻した時間は後で修正したとしても履歴が残るため、企業側も不正ができません。Aさんの会社でも電子打刻を導入し、このような問題を防止する必要があると考えます。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。