会社員のAさんは子どもの頃からパンが好きで、仕事の合間に新しいパン屋の開拓に勤しんでいました。就職するときも出張の多い仕事を選び、行先でのパン屋との出会いも楽しみに日々過ごしています。
パン好きが高じたAさんは、おいしいパン屋を紹介するブログを始めます。当初は自己満足の域を出なかったブログが、徐々に注目を集めるようになっていきました。なかにはAさんのブログを参考にして、パン屋へ足を運ぶファンも生まれるほどです。
「Aさんおすすめのクロワッサンを求めて、隣県まで足を運びました!」といったコメントも入るようになり、Aさんはますますパン屋開拓に力を入れ始めます。休日はもちろん、出張の際も早起きして現地のパン屋を訪れ、その土地ならではの味を求めて奔走しました。
そんなある日、Aさんは地方出張の帰りに立ち寄った小さなパン屋で、目を疑うようなパンに遭遇します。ショーケースに並んでいたそのパンは、国民的人気アニメのキャラクターの顔にそっくりでした。
興味を持ったAさんは、店主に「このパン、あのアニメのキャラクターですよね?」と問いかけます。しかし店主の返答は「オリジナルです。似ているだけですよ」という意外なものでした。
どうも店主はアニメ制作会社に許可を得ず、そのパンを作っているようです。この場合、著作権侵害には当たらないのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに伺いました。
ーアニメキャラクターそっくりなパンを販売しても問題はないのでしょうか
アニメキャラクターは、著作物として著作権法で保護される対象です。無許可でキャラクターの名前を使うことはもちろん、キャラクターだとわかるパンを製造した場合でも、著作権法に違反していると判断される恐れがあります。
著作権侵害の刑罰は著作権法第119条に基づき、原則として10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、またはその両方が科されます。
ー無許可で販売できているのはなぜなのでしょうか
著作権侵害は原則として親告罪であるため、著作権者が告訴しないかぎり問題になりません。大規模な著作権侵害がおこなわれているのであればまだしも、個人商店のパン屋が相手であれば、告訴する方が損失になってしまうでしょう。
ただ、2020年にはアンパンマンのキャラクターを無許可で使用し、人形焼きを移動販売車で売っていたとして、書類送検されたことがあります。
近年では、SNSなどで情報が簡単に拡散されてしまいます。これまで大丈夫だったからといって、これからも大丈夫という保証はありません。著作物を無許可で使用しているケースがあれば、速やかに販売を停止するべきです。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。