自分は自分であると、胸を張って30代を迎えることが出来た。
2024年だけで映画『夜明けのすべて』『九十歳。何がめでたい』『夏目アラタの結婚』『チャチャ』『アイミタガイ』が公開。『つづ井さん』で連続ドラマ初主演も。
「自分には何もない」。かつて抱いたコンプレックスを吹き飛ばして、藤間爽子(30)はしっかりと自分の足で立っている。
敷かれた名家のレールに葛藤
俳優歴を尋ねると、朝ドラ『ひよっこ』から数えて7年だという。だが初舞台を踏んだのは7歳の頃。今は亡き祖母は日本舞踊界で知らぬ者はいない、初世家元藤間紫。爽子は幼少より師事し、2021年には三代目藤間紫を襲名した。
由緒ある家系に生まれ、日本舞踊界でメキメキと頭角を現してきた。傍から見れば華々しき道を歩む。しかし本人にとっては、時に敷かれたレールに思えてしまうこともあったようだ。
「舞踊のお家に生まれて、三代目を襲名するという話になった時、ふと自分には何もないと思ってしまいました。結局は祖母が敷いてくれたレールにただ乗るだけではないかと。そのようなコンプレックスが昔からあって、何か自分を色眼鏡のない状態で、藤間爽子という人間を見てもらえるものを、日本舞踊とは別に一個でもいいから確立したいと思っていました」
飛び込んだのは芝居の世界。2018年に俳優で劇作家の長塚圭史が主宰する劇団・阿佐ヶ谷スパイダーズに入団した。そこから俳優の道を歩むことに。
振り返れば小学2年生の頃、学校の学芸会で役を演じた時に「私これ好きだわ!」と強烈に心が震えた。クラスでは引っ込み思案の真面目系で通っていたはずなのに、こと学芸会となると主役に立候補した。
「学芸会の主役といえば、クラスの明るい人気者がなるイメージ。それなのに普段は大人しいグループにいるような私が率先して主役をやりたがるという。ちょっと気持ち悪がられていたと思います」と苦笑する。
がむしゃら7年の現在地
何が彼女を演じることに惹きつけたのか。
「主役をやると周りが『上手だね!』と褒めてくれたりするので、それで自分が高まるというか。私ってこれが得意なのかも、好きなのかもと。役を通して自分の気持ちを発露できる快感もあったし、褒められたりする成功体験が重なった結果でしょうか」
それが今では自分という個性を表す武器になった。
「誰かに比べられることへの反動。その誰かとは私にとっては祖母なわけですが、比べられることのない私を一つ、自信となるものを身に付けたいと思って飛び込んだ俳優業。藤間爽子として地に足をつけて立ちたい、ただそれだけを目標に頑張って来た7年でした。とにかくわけもわからずがむしゃらに」
チャレンジへの枯れぬ欲
果たして彼女自身は俳優・藤間爽子を確立できたのか?そんな問いかけは、今年だけの活躍ぶりを見ても不要なことは明らかだ。胸を張って名乗れる、私は俳優・藤間爽子であり三代目藤間紫だと。
「俳優として活動しながら襲名もして、毎日が目まぐるしくて楽しい事しかありません。もちろん悩むこともありますが、いざ終わってみると『ああ、楽しい』しか残らない。そんな20代を過ごすことが出来ました。今年8月に30歳になって、どんな楽しいことがこれから続くのだろうかとワクワクしています」
声を弾ませる一方で、祖母であり師匠であり、永遠のライバルの存在は常に念頭にある。だから「20代と変わらずがむしゃらに、それに加えて自分の成長をより一層実感できるようなお仕事にも挑戦したい。新しい事へのチャレンジ精神は凄いですよ!」と野心を隠さない。
10月11日公開の映画『チャチャ』に出演する。“人目を気にせず好きなように生きる”をモットーに、自由気ままな日々を送るチャチャ(伊藤万理華)の奇妙奇天烈なラブストーリー。藤間は、チャチャの動向が気になって仕方がない同僚・凛を演じる。藤間初のコミカルアクトに刮目せよ!