tl_bnr_land

『toi-toi』スピンオフドラマ放送 俳優・河合美智子が脳出血を経験して感じたことがそのまま役の台詞に

佐野 華英 佐野 華英

NHK大阪放送局が制作する福祉番組『toi-toi』(NHK Eテレ)のスピンオフドラマ『わたしって、なに?』が3月5日午後8時から放送される。『toi-toi』では、毎回「問いを立てる人」が持ち寄ったテーマについて、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが対話を重ねながら「問い」を探求している。今回は、ドラマという形で「わたしって、なに?」という問いの答えを探していく。

どんなドラマ?→とにかく不思議なドラマ

とある海岸に流れ着いたゴミの塊に、ふとしたきっかけで感情が生まれたとしたら…。ゴミの塊は、音楽が好きな全盲の女の子(棡葉あんじ)と出会い、カンちゃんと呼ばれ、遊びを通じて友達になる。そして、カンちゃんは通りかかったお遍路さん(河合美智子)と語り合う。自身の病気について、生き方について語るお遍路さんの思いを受け取ったカンちゃんにある変化が起こる。

公式サイトに掲載されているあらすじを見るに、すでに「不思議」な匂いがするが、試写を観た筆者もこの作品を形容するなら「不思議」の一言に尽きると思った。というか、「これは、○○なドラマです」という紋切り型の言葉が、この作品には似つかわしくない。

ゴミの塊・カンちゃんと語らうお遍路さん

重要な役を演じるのは、河合美智子さん。相米慎二監督作品『ションベン・ライダー』(1983年)にて14歳でスクリーンデビューを果たした彼女は、その後数々の映画やドラマに出演。連続テレビ小説『ふたりっ子』(NHK総合/1996年)で演じた演歌歌手・オーロラ輝子役が一躍人気となり、その年の紅白歌合戦にも出演した。2016年に脳出血を発症し、懸命なリハビリを続けたが、右半身にまひが残った。

近年の出演作では土曜ドラマ『パーセント』(NHK総合/2024年)や、夜ドラ『いつか、無重力の宙で』(NHK総合/2025年)などが記憶に新しい河合さん。今回のドラマで演じる役は徳島を巡る「お遍路さん」で、ゴミの塊でできた「カンちゃん」と「わたしとは何か?」を語っていく。

河合美智子さんと、作・演出をつとめた福岡利武さん、『toi-toi』ならびに今回のドラマの制作統括をつとめる三好健太郎さんに話を聞いた。

夜ドラ『いつ宙』撮影の合間の雑談からはじまった

河合さんは本作について、「ドラマって言われて観ると不思議ですよね(笑)。ストーリーを追ってしまうと迷宮入りしてしまうんだけれど、30分通して観ると、必ず『何か』を感じてもらえる作品になっていると思います」と話す。

その、視聴後に感じる「何か」について作・演出を手がけた福岡さんはこう語る。

福岡 10人いれば10人の感想が違う作品だと思います。いろんな解釈があって、いろんな受け取り方ができる。大本の番組『toi-toi』がそうであるように、押しつけたり、何かの答えに導くようなドラマにしてはいけない、ということを強く意識して作りました。

 僕が制作統括をつとめた『いつか、無重力の宙で』に河合さんに出演していただいたとき、撮影の合間にたくさん雑談をしたのですが、お話がめちゃくちゃ面白いんですよ。想像のはるか上をいく、というか。そこに魅力を感じまして、今回のドラマでは重要な役どころでオファーしました。

オファーを受けた際の心境を、河合さんが振り返る。

河合 私は10年前に脳出血を発症して、右の手足にまひがあります。役者というのは演出家に言われたことにすぐに対応しなければいけないものだと思い込んでいたので、もうお芝居はできないかもしれないと考えていた時期がありました。それでもオファーをいただいて、いくつかの作品に出演はしたけれど、自分で想像したとおりに動けないことがしんどくなって「もう無理だな…」なんて思ってしまって。

 そんなときに、福岡さんが制作統括をされた『いつか、無重力の宙で』への出演依頼をいただきました。一旦はお断りしたんですけど、「いや、河合さんにこの役をやってほしいんです」と言っていただいて。不安だったけど撮影に入ったら、『いつ宙』の現場がすごく温かくて、固くなっていた私の気持ちをほぐしてくれたんです。「甘えるところは甘えればいいんだ」「ガチガチに頑張らなくていいんだ」と思わせてくれた。その経験があったので、「福岡さんが作るドラマなら、ぜひ挑戦してみたい」と、今回は二つ返事でお受けしました。

フィクションなのかドキュメンタリーなのか、わからなくなる瞬間があった

『わたしって、なに?』の重要なポイントである「お遍路さんとカンちゃんの対話」のシーンの脚本は、福岡さんが河合さんと会話を重ねて作ったという。そのため、お遍路さんの台詞には河合さん自身の来し方やキャリア、そして「思い」が反映されている。

河合 福岡さんが私にたくさんヒアリングしてくださってできた台本なので、お遍路さんの台詞の中で「自分では思ってないけど、台本に書いてあるから言った」という言葉はひとつもないんです。これはドラマだし、私は「お遍路さん」という役を演じてはいるんだけれど、自分でもフィクションなのかドキュメンタリーなのか、わからなくなる瞬間がありました。「これはなんだろう?」「私は今、誰?」みたいな(笑)。

私は脳出血の後遺症で高次脳機能障害があり、記憶に障害があったり、自分で言ったことがわからなくなってしまうことがあります。カンちゃんとの対話のシーンでも、言葉に詰まってしまうことがあったのですが、他の作品ならNGになるところ、今回はそのまま撮ってもらいました。それで本当に心が解放されたというか。アドリブとも少し違う、「その場で生まれた感情」が言葉になっている部分もたくさんあります。

いろんなことを逸脱しながら伝えられることがあるんじゃないか

カンちゃんとの対話シーンでの、お遍路さんの話しぶりが実に自然で、どこまでが台詞で、どこからが“アドリブ”なのか、見分けがつかない。その「生」の感覚が、このドラマの大きな見どころといえる。

福岡 ドラマ的なセオリーとか、いろんなことを逸脱しながら伝えられることがあるんじゃないかと思いましたし、今回いちばん大切にした部分です。そこに河合さんのようにキャリアのある俳優さんが全力で乗っかってくださったのが、本当にありがたかったです。僕らスタッフも撮影中、河合さんの言葉に全員感じ入ってしまって。みんな台本を読んでいるのに、初めて聞く言葉のようで、とても不思議な体験でした。

河合 カンちゃんはゴミの塊なんだけど、感情を持っている。お遍路さんとカンちゃんが対面したとき、普通のお芝居なら「ゴミ?」「汚い!」「でも何かしら?」「あれ、動くの?」みたいな表情や動作を細かく入れなければならないところ。でも、そういうものを全部取っ払って、感じたままに、私はそこにいました。そうしたらもう、カンちゃんのことが大好きになってしまって、思わず「会えてよかったー!」と言葉に出てしまった。台本には書いていなかった言葉です。カンちゃんの前では本当に自分をさらけ出せて、ついポロポロと語ってしまいました。

「当事者の声を大事に」をモットーにしてきた大阪局が作ったドラマ

このドラマと、『toi-toi』の制作統括をつとめる三好健太郎さんは、今回の企画趣旨についてこう語る。

三好 『toi-toi』でも、同枠でその前に放送していた『バリバラ』でも、NHK大阪局はずっと、当事者の声を伝えることを大事にしてきました。今回のドラマ『わたしって、なに?』も、まさに「当事者の声」だと思います。大きな病気を経験された河合さんが感じたこと、思ったことを言葉にしてくださったことで、とても豊かな作品になっています。『toi-toi』を観ていただいている方にも、ご覧になったことがない方にも、ドラマが入り口になって、また違ったかたちで「問い」について考えるきっかけになればうれしいです。

最後に、福岡さんと河合さんから視聴者へのメッセージをもらった。

福岡 観てくださった方に、「何を思っていただいてもいい」という気持ちで作りました。徳島の海岸で、スタッフ、キャストみんなで考え、魂を込めて作ったドラマです。何かを「感じて」もらえればうれしいです。

河合 ドラマなのにドラマじゃない作品です(笑)。「こんなふうにしたほうがいいのよね」みたいなことを全部なしにして、観た方が思うままに感じて、そしてちょっとだけ考えて、ちょっとだけ思いやりを持ってくれたらいいな、と思います。

まいどなの求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース