新千円札の肖像となる細菌学者・北里柴三郎の生誕の地、熊本県阿蘇郡小国町(人口約6600人)では、柴三郎の似顔絵を描いたフラッグなどが道の駅や主要な観光地周辺の街路灯に飾られ、新札発行の機運を盛り立てている。
「近代日本医学の父」と呼ばれる北里柴三郎博士は、まだ抗菌薬のない時代に破傷風菌の純粋培養とその毒素を用いた血清療法を世界で初めて確立。感染症と戦う術を見出し、日本の公衆衛生の礎を築いた人物。同町内にある「北里柴三郎記念館」ではその功績や人となりなどを詳しく知ることができる。敷地内には、昨年9月に完成した「ドンネル館」をはじめ、北里文庫、貴賓館、少年時代を過ごした生家の一部(移築)などが見学できる。来場者は昨年度に比べ3倍ほどのペースで増えているという。
館長でひ孫の北里英郎さんに同館の見どころを聞くと「まずドンネル館で映像を観たあと、北里文庫や貴賓館をまわられるといいでしょう」とほほえむ。
ドンネル館は、柴三郎博士の功績が映像で学べるとともに、新たな交流を育むための文化観光拠点の役割を担う。外観は周辺の山々の稜線をイメージし、窓には「小国富士」と呼ばれる涌蓋山(わいたさん)が映る。館内では「北里柴三郎〜怒涛の生涯」と題した映像(上映時間約20分、1日13回上映)を鑑賞することができる。また、館内各所にはQRコードが設置され、専用タブレットで読み込むことで、知る人ぞ知る逸話を収めた動画視聴が可能。柴三郎博士の人となりを深く知ることができる。
北里文庫は1916年、柴三郎博士が63歳のとき、「未来を担う郷里の子どもたちのために」と私財を投じて建設されたルネサンス様式の図書館だ。ゆかりの品が展示され、業績を年代順に追って学べる資料館となっている。また、奥にある土蔵の書庫は、当時1511冊を収蔵していたという。置屋根式で造られているため防湿、断熱に優れ、貴重な本がそのまま残されている。
「当時は熊本県下で2番目の蔵書を誇ったそうです。柴三郎は、江戸末期から明治にかけ、懸命に勉強して人生を切り拓いたわけですが、自身もそうだったように、幼少期の勉学というのは非常に大切だと。それで子どもたちのためにこの図書館を作ったんです。もう一つは当時、こうした洋館というのは非常に少なかった。小国町が九州のどこにあるかや、日本が世界の中でどこにあるか、世界観も含めて人々に伝えようしたのではないかと。今後は貴重な資料はデジタル化し、公開していくことを検討しています」と英郎さんは話す。
帰省の際の住居、賓客をもてなすための邸宅として1916年に建てられた貴賓館は、地元の特産・小国杉が用いられ、質素で純和風の造り。2階の客間からは、柴三郎博士が愛した涌蓋山が一望でき、北里川をわたる爽やかな風を浴びながら、当時に思いを馳せてみるのもおすすめだ。
館内には、グルテンフリーで米粉100%使用のバウムクーヘンなどの食品をはじめ、Tシャツ、タオル、文具、キーホルダー、関連書籍などの記念品もたくさん販売されている。