「TOEIC820点」なんて実はウソ! 履歴書の虚偽が発覚した新入社員…解雇の可能性は【社労士が解説】

長澤 芳子 長澤 芳子

企業への就職や転職のため、面接を受ける際に提出する履歴書は、自分を企業に売り込むための武器といっても過言ではありません。しかし就職を意識しすぎて、履歴書の情報を本来の自分の能力よりも「盛って」しまう人も多いようです。

今年、希望していた企業に入社することになったAさんも、履歴書を「盛った」ことでトラブルになりかけたひとりです。彼女は就職活動時に使っていた履歴書にTOEICの点数を820点と記述していました。

営業事務のポジションに配属される予定だったAさんの履歴書を見た人事部のBさんは、ちょうど欠員トラブルが発生していた海外事業部にピッタリな人材だと思い、上司に相談します。この提案は承認され、Aさんは急遽海外事業部に配属されます。

海外事業部に配属されたAさんは、特に問題なく業務に馴染んでいき、Bさんは適材適所の人選ができて安心していました。しかしある日、Aさんと彼女の同期社員らが給湯室で休憩しているところをBさんが通りかかると驚きの発言を耳にします。

Aさんはなんと「実はTOEICの点数は嘘なの」と話していました。続けて「履歴書のTOEICスコア盛っておいて、本当によかった」と語っており、Bさんは顔面蒼白になりながら自席に戻りました。

たしかに海外事業部の現在の業務では、TOEICの点数でいうと400点台の英語レベルでも支障がありません。しかし、もしも今後英語力がさらに必要なケースが出た場合を想定してAさんを推薦したBさんは、裏切られた気分になってしまいました。

このような履歴書の嘘は解雇につながるような問題ではないでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに詳しく聞いてみます。

ーそもそも履歴書に嘘の内容を書いて入社するのは問題にならないのでしょうか

場合によりますが、問題になることもあります。ポイントは企業側から見た時の書かれている内容の重要度です。例えば企業側がタクシー運転手を募集する際に、普通二種免許を条件にしていたとします。そこで持っていないのに免許を持っていると嘘をついて入社したら、バレた時点で解雇されるでしょう。

また営業の部隊を任せられる人材を求めている企業に「前職では営業部長をしていました」とアピールして入社したのに、実は部下が誰もいない閑職だとバレた事案もありました。この場合は、営業手腕があることを前提に採用したという点、契約の根本である信頼関係を損ねたという点で、解雇もありうる事例です。

ただしこのような嘘を原因とした解雇をおこなうには、企業側は就業規則に経歴詐称が懲戒処分の事由になると定めていることが必要です。この点はフジ興産事件の最高裁判決(2003年10月10日 第三小法廷判決)で、「使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」「就業規則が法的規範として拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する」と示されています。

ーではTOEICの点数の嘘をついていた社員の場合はどうでしょうか

採用時に、TOEICの点数がどれだけ重要視される要素だったかというのがポイントです。この内容で判断する限り、当初は英語不要の部署に配属になっていることと、異動後もそれほど英語を使用しない部署であることから、彼女の採用合否に関してTOEICの点数が関与した程度は高いとはいえないでしょう。ですので、TOEICの点数を理由に彼女を解雇するのは難しいと思います。

ただ嘘をついていたということがバレれば、上司や同僚からの信用は失ってしまうかもしれませんね。企業側が履歴書の情報に嘘がないかバックグラウンドチェックをおこなうこともあるので、正直な情報提供をしたほうがトラブルを避けられるのは間違いないでしょう。

◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。

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