【大河ドラマ「光る君へ」コラム】宮廷の才女清少納言もデビューは散々? 中宮定子の御所に出仕するも緊張のあまり「涙も落ちぬべければ」

大江 篤 大江 篤

新しい年度が始まって1カ月が経ちましたが、職場や学校での環境に慣れてきたころでしょうか。平安時代の宮廷女性もデビュー時は緊張したようです。女優・吉高由里子さんが主演で平安時代を生きた紫式部を演じるNHK大河ドラマ「光る君へ」の第15回では、ききょう(演・ファーストサマーウイカさん)が、藤原定子(演・高畑光希さん)の話し相手として内裏の登華殿に初めて対面し、「清少納言」という名を与えられるシーンがありました。

清少納言の『枕草子』一七七段「宮にはじめてまゐりたるころ」には、

宮にはじめてまゐりたるころ、物のはづかしき事の数知らず、涙も落ちぬべければ、夜々まゐりて、三尺の御几帳のうしろに候ふ。

とあり、初めての宮仕えに相当緊張していた様子が描かれています。「涙が落ちてしまいそうで、人に顔を見られることが恥ずかしくて、毎日、夜に参内し、御几帳の後に控えていた」とあります。

さて、ドラマでは、初出仕の場面は、端午の節供の日に設定されていました。登華殿の屋根の上には、菖蒲が葺かれ、前庭には菖蒲の輿が設えてありました。『枕草子』三七段には、

節は、五月にしく月はなし。菖蒲、蓬などのかをりあひたる、いみじうをかし。九重の御殿の上をはじめて、言ひ知らぬたみのすみかまで、いかでわがもとにしげく葺かむと葺きわたしたる。なをいとめづらし。

とあります。「宮中だけではなく民の住まいにも、一面に菖蒲や蓬を軒に葺いていて、その香り合うのがとてもおもしろい」と記しています。現在でも菖蒲を軒に葺く風習が残っている地域もあります。

続いて、宮中で屋内に飾られる「薬玉」について、

空のけしき曇りわたりたるに、中宮などには縫殿より御薬玉とて色々の糸を組みさげてまゐらせたれば、御帳立てたる母屋の柱に、左右につけたり。

と記されています。「薬玉」は、長命縷、続命縷ともいい、香料を錦の袋に入れ、円形にして糸や造花で飾り、菖蒲や蓬をあしらい、五色の糸を長く垂らしたものでした。

「節」とは「節日」のことで、年中行事のことです。五月五日は端午の節供でした。この行事の源流は中国にあります。六世紀中頃に成立した年中行事書『荊楚歳時記』に、

五月は俗に悪月と称し、多く沐薦蓆を曝すを禁忌し、及び屋を蓋ふを忌む。五月五日、之を浴蘭節と謂ふ。四民並びに百草を踏む。又百草を闘はすの戯あり。艾を採りて以て人形に為り、門戸の上に懸け、以て毒気をはらひ、菖蒲を以て或ひはちりばみ、或は屑とし、以て酒に泛ぶ。この日、競渡し、雑薬を採る。風俗通に曰く、五月五日、五綵の糸を以て臂に繋げ、名づけて兵及び鬼を辟くと曰ふ。

とあり、五月五日は「浴蘭節」といい辟邪の行事が行われていました。蓬を門戸の上にかけて毒気をはらったり、菖蒲を酒に浮かべたりすること、船競争、薬草摘みなどが列挙されています。これらのなかには、現在も年中行事として伝えられているものもあります。

五月五日は昭和23年(1948年)に国民の祝日「こどもの日」として制定されましたが、古くは端午の節供として、さまざまな行事が行われました。柏餅や粽を食べたり、菖蒲湯や菖蒲の鉢巻きをしながら、清少納言のように五感で季節を感じてはいかがでしょうか。

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