京都・祇園のラウンジでママをしている女性が、京都府山城地域を拠点にキッチンカーを出店している。歓楽街から各地のマルシェ会場などへ、ほぼ眠らずに向かう。夜と昼の世界を行き来する活動はどうして始まったのだろうか。
京都市東山区の祇園でラウンジ「祇園WILL」と「祇園WILL―K」の2店舗を経営する佐藤ゆかりさん(55)=京都府八幡市。「おしゃべりをしながらお客さまと笑い合うことが好き」で、接客や営業に携わる仕事は「天職」と話す。
キッチンカーを始めたのは、新型コロナウイルス禍が始まった2020年。当初は「夜の街」が感染の温床とやり玉に挙げられた。「このまま人が戻らないかもしれない」。緊急事態宣言で休業を余儀なくされる中、接客の仕事は続けたいと思い、屋外でテイクアウトによって営業できると考えついた。
すぐにトラック探しを始め、同年秋に「マダムのキッチンカー」を開業する。素早い事業展開は「1度どん底を知ってるから」。27歳で知人と立ち上げた会社の資金繰りが立ちゆかなくなり、多額の借金を抱えた。36歳でバニーガールに挑戦するなど、生活のために五つの仕事を掛け持ちしてがむしゃらに働いた。「逆境には強い」とほほ笑む。
キッチンカーでは唐揚げやポテト、アイスブリュレクレープなどを提供。客層は多くが家族連れで、商業施設や道の駅、福祉施設などを回っている。
コロナ禍が落ち着きラウンジの営業を再開してからも、キッチンカーの営業は続けている。仕込みや片付けを合わせれば1日がかりの仕事で、休日返上の出店となる。収益だけを考えればキッチンカー事業は「プラマイゼロ」というが、「夜とは違う新しい出会いがあり、何より楽しいからやっています」。
夜の客がキッチンカーに足を運んでくれることもあれば、昼に出会った人がラウンジまで飲みに来てくれることもある。「情と愛のある、あったかい世界で、つながりの中で支えられてきた。出会った人たちに感謝をお返ししていきたい」
出店は土日祝の不定期。