「メスのラブラドール・レトリーバーを飼っている高齢者が『もう世話できない』と引き取り手を探しているらしい」
そんな相談が静岡県の保護団体・アニマルフォスターペアレンツ(以下、アニマルフォスター)に舞い込みました。
そのレトリーバーは元繁殖犬で、あちこちの家を転々とした後、現在の家にもらわれたそうです。さっそくこの高齢者の元を尋ねたスタッフは、ワンコが置かれた状況に愕然としました。
高齢者の飼い主の返答は「名前? ない」
ワンコは、陽の当たらぬ屋外で、廃材で作ったような柵の中に過ごしていました。寝床となるようなところは見当たらず、雨除けとしてブルーシートが掛けられていました。
明らかに大切に世話されていないことがうかがえましたが、ワンコはスタッフを前に尻尾を振ってくれました。
スタッフは飼い主の高齢者にアレコレと質問。年齢はもうすぐ7歳。「このワンちゃん、名前はなんと呼んでいたのですか?」と尋ねると、「名前?ない」。スタッフは涙が溢れました。
生まれて初めての名前をつけてあげた
悲しみ、憤り、悔しさ…。スタッフは複雑な気持ちになりましたが、ともあれこのワンコがここにいても良いことはありません。迷わずワンコを引き取ることにし、アニマルフォスターの保護施設に連れて帰りました。
ワンコは首輪をしてもらったことがない様子で、リードをつけても歩くことすら出来ません。それでもスタッフは「大丈夫。これから少しずつ一緒にがんばっていこうね」と声をかけ、山盛りのエサを与えました。すると、バクバクとあっという間に完食。満足できるほどの量を与えられていなかったのかもしれません。その後、ワンコは疲れ果てたように、スヤスヤと眠りにつきました。
その表情はどこまでも穏やか。「どうしてこんなにかわいいお利口さんが、人間の身勝手でひどい目に遭わなくてはいけないのか」とあらためて胸が苦しくなるスタッフでした。
そして、このワンコに「ノエル」という名前をつけてあげました。
尻尾を振りながら小刻みに歩みよってくる
ノエルは当初こそ、「こんなに自由に過ごして良いの?」「こんなにたくさんのご飯をもらって良いの?」と、やや遠慮気味な様子でしたが、スタッフと過ごす日々の中で、心を開き思い切り甘えてくるようになりました。
スタッフの姿を見つけると、尻尾の振りながら小刻みに歩みよってきます。その様子を愛おしく感じるスタッフでしたが、数カ月を経て、ついに「ノエルを迎え入れたい」という里親希望者さんが現れました。
いつも優しい人たちがそばにいてくれる環境へ
その人はノエルのことをブログなどで知り、「うちで迎え入れさせてほしい。ノエルとずっと一緒に過ごしていたい」と言ってくれました。
一定期間のトライアルの際には、ノエルもまたこの里親さんの優しさを感じ取り、すぐに懐き、のちに正式譲渡となりました。
新しいお家でノエルは「初めての本当の家族」となった里親さんに心を寄せ、安心感からどこでもすぐに眠ってしまいます。これまで安心できる環境に恵まれなかった分、穏やかにのんびりとした生活を送れていることをスタッフは大いに喜びました。
いつも優しい人たちがそばにいてくれる理想の場所をつかめたノエル。スタッフは「これからは思う存分里親さんに甘えて、幸せに過ごしてね」と声をかけました。
アニマルフォスターペアレンツ
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