女優・吉高由里子さんが主演で平安時代を生きた紫式部を演じるNHK大河ドラマ「光る君へ」。前回、お笑いトリオ「ロバート」の秋山竜次さんが演じる藤原実資(ふじわらのさねすけ)の日記『小右記』(しょうゆうき/おうき)に触れました。平安貴族の実像を知る資料として、彼らの残した日記は貴重な史料です。
『小右記』のほか、柄本佑さんが演じる藤原道長の『御堂関白記』、渡辺大知さんが演じる藤原行成の『権記』があり、それぞれの立場での記録を読み比べるなど、興味は尽きません。男性貴族の日記は漢文で書かれているためなかなか読む機会がありませんが、ドラマの時代背景を知るうえでもチャレンジしてはいかがでしょうか。今回は『小右記』について紹介します。
『小右記』は、実資が養父、藤原実頼を家祖とする小野宮家の出身であり、右大臣であったことがその名の由来です。すべてが残っているわけではありませんが、21歳から84歳にわたって書かれ、この間ほとんど欠かさず書きつがれたであろうといわれています。
寛仁二年(1018)、藤原道長の著名な「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたる ことも なしと思へば」が書かれており(10月16日条)、実資はこの和歌の披露の引立役をしています。先例故実の豊富な知識、官人としての気骨ある記述がみられるとともに、藤原道長の唯一の批判者として辛辣な記述が見られます。この日記は、宮中の暮らしの詳細な様子がわかるとともに、当時の政界の動きを知ることができるのです。
『小右記』の写本は、国立公文書館デジタルアーカイブや尊経閣善本影印集成で見ることができます。活字本は、『大日本古記録』(岩波書店、東京大学史料編纂所古記録フルテキストデータベース)に集成されています。その他『史料通覧』(未完)、『史料大成』(臨川書店)で読むことができます。書き下しについては、国際日本文化研究センターの摂関期古記録データベースで検索することができます。
大河ドラマの時代考証を担当されている倉本一宏先生(国際日本文化研究センター教授)の『現代語訳 小右記』(全16巻、吉川弘文館)があり、現代語訳・書き下し・翻刻と並べて読み進めていくことができます。ドラマの場面の前後にあたる『小右記』の現代語訳を読み、ドラマと史実を比べてみましょう。そこから、書き下しを読み、原文に挑戦してください。平安貴族の世界に一歩ずつ近づいていくことができます。
なお初めての方は、倉本先生が編集された『ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 小右記』(角川ソフィア文庫)をおすすめします。
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神と霊が照射する古代の人々の心を「怪異学」の視点で研究する園田学園女子大学学長の大江篤さん。「怪異学」とは、フシギなコトやモノについての歴史や文学の記述や記録を解読することで日本人の心の軌跡にアプローチする研究分野です。研究者が見る「光る君へ」論を寄稿してもらいます。