奈良県から大阪府を東西に流れ、大阪湾へ注ぐ大和川。その堤防に不思議な記号が記されている。これはヘリサインといって、災害時に上空を飛ぶヘリコプターのために設けられた“道しるべ”のようなもの。
調べていくと、河川だけでなく、建物にも記されていることが分かった。
ヘリサインを見れば川の上流と下流も分かる
ヘリサインは対空標示または対空標識ともいい、上空から目的地や現在地を確認できるよう、河川の堤防や建物の屋上に場所や施設の名称を大きな文字で表示したもの。とくに固定翼機に比べて低速で飛行するヘリコプターからの目印として有効なのだという。
冒頭の写真は、大和川の堤防に「YM-R9」とペイントしてある。もちろん意味があって、「YM」は大和川、「R」は右を意味する「Right」で川の右岸(下流に向かって右側)、数字の「9」は河口からの距離(km)を表している。
つまり「YM-R9」と記されている堤防は、大和川の河口から9km地点の右岸であることを示しているのだ。ちなみに対岸の堤防には、「Left」を示す「L」で「YM-L9」と記されている。
川は下流に向かって右側を右岸、左側を左岸という。だからヘリサインを見れば、どっちが上流なのか下流なのかも分かるようになっているのだ。
ヘリサインがいつから、どのようなきっかけで始まったのか、大和川河川事務所に聞いた。
「2011年に設置することが決まり、大和川では2012年から設置しています。防災ヘリコプターなどを用いて、地震・出水等の災害時において、被災した河川管理施設の速やかな特定や氾濫状況の把握等を行うためです。(ヘリサインによって)位置の特定が迅速に確認できます」
また、建物の屋上への表示は、もっと早くから行われていたようだ。大阪府危機管理室災害対策課によると、大阪府では阪神淡路大震災を教訓に2006年度から整備を実施してきたという。
災害時に、消防、警察、自衛隊などのヘリコプターによる迅速かつ正確な救助・支援活動を実現するため、誤着陸防止や道標として整備しているそうだ。
大規模な災害ともなれば、他府県からも支援のためヘリコプターが飛来する。土地勘のない操縦者が正確に目的地へたどり着くためにも、ヘリサインはたいへん役に立つのだ。
上空から見やすいよう学校や病院の屋上に大きな文字で表示
ヘリサインを表示する場所や建物の基準はあるのだろうか。
大阪府危機管理室災害対策課によると、災害時に救助や支援活動を行うヘリコプターが着陸する可能性がある災害用臨時ヘリポートに隣接する避難所施設の学校等に整備するとのこと。一方、大和川河川事務所は、原則として舗装された堤防天端に整備するそうで、距離標示については防災ヘリコプターなどの飛行速度を考慮して、左右岸とも1km間隔を基本としているそうだ。
これが全国的な取り組みなのか否かについては「他の自治体の取り組みついては情報を持ち合わせていません」(大阪府危機管理室災害対策課)とのことだが、東京都や熊本県をはじめ全国で行われているようだ。
建物に表示する文字の規格は全国統一ではなく、自治体ごとに定められている。ちなみに大阪府で平成30年(2018年)度に整備したヘリサインの規格は、フォント:ゴシック体、文字大きさ:縦横4m程度、文字太さ:0.3m以上、文字間隔:1m程度、文字色:黄の蛍光色となっている。
「大阪府が今まで整備したヘリサインの中には、平成30年度(2018年)の規格と異なるものもございます」
河川の堤防に表示されるヘリサインの規格は、建物に表示されるものとは少し違っていて、文字の大きさは3m×3m程度、線の幅は45cm程度、字体は特に規定がなく色は白色が基本だそうだ。
大阪府だけで162カ所(2019年2月末、河川を除く)のヘリサインがあるそうだが、今後も増えるのだろうか。
「市町村などに対し、施設の建て替え時期にあわせた整備を働きかけています」(大阪府危機管理室災害対策課)
「直轄の全河川で距離標の対空標示は設置完了していると思いますが、河川管理施設の対空標示は引き続き設置を予定しています」(大和川河川事務所)
2024年は年明け早々に能登半島が大地震に襲われ、あらためて防災に関して強く意識せざるを得なかった。空からの救助や支援活動を迅速に行うためにも、ヘリサインは重要なのだ。
▽大阪府下ヘリサイン整備一覧
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/26480/00000000/herisainH31.2.pdf