シャンシャンに会いに中国へ→スケッチした大事なノートを紛失 日中パンダファンが全面協力「現代ならではの奇跡が…」

二木 繁美 二木 繁美

「旅の終盤にきて、個人的なショックなことが」…と、パンダ木彫家の阿久津優さんがX(旧Twitter)で悲しみを吐露。パンダのシャンシャンに会いに行った中国で、これまでイラストを描きためた大切なクロッキー帳を忘れてきてしまったのです。

海外とあって、すっかりあきらめながらの投稿でした。すると、さまざまな人が協力してくれて発見できたとの連絡が! クロッキー帳は、現地で「神」と呼ばれるパンダ写真家の高氏貴博さんによって、持ち主のところへと返ってきたのです。そのときの様子を詳しく聞きました。

忘れないという自信があったのに…

生まれて初めてしゃべったのが「パンダ」だったと親から言われるほど、物心つく以前からパンダに夢中の阿久津さん。多摩美術大学大学院彫刻専攻を修了し、現在はパンダ木彫家として活動しています。

年間パスで足しげく上野動物園に通う阿久津さんは、同園から中国へ旅立ち、10月から一般公開が始まったシャンシャンに会うために「ニーハオ!中国ーパンダのシャンシャンと再会の旅」に参加。その際にパンダのスケッチや旅の感想が書かれた大切なクロッキー帳を中国の観光地・寛窄巷子(カンサクコウシ)に忘れてきてしまいました。

寛窄巷子は約300年前、清の時代の古い街並みをリノベーションして作られたエリア。おしゃれなカフェやショップなどが並ぶ、成都の観光名所の一つです。阿久津さんがクロッキー帳を忘れたのは、「スタンプ帳や裏にスタンプを押すカードなどを売っているお店だったと思います。和花(ファーファ)ちゃんのカードを買って、裏に可愛いパンダの記念スタンプを押してきました。時間の関係でちょっと焦っていたのでじっくり見てはいませんでした」と、振り返ります。

ホテルに戻ってからクロッキー帳がないことに気づいた阿久津さん。その時の気持ちについては、「血の気が引きました。心臓がギュッと握られる感じです」と話します。「忘れ物しないように毎回、心の指差し確認をしているのに、今回の旅では舞い上がっていたのか、何度か何かしながら片付けてしまい、後になって『あれ?どこ仕舞った?』を繰り返していました。予兆はありましたよね。でも、絶対みつかるから、忘れないという自信もあって、それが過信になっていたかもです」。

じつは筆者もその旅に参加しており、落ち込む阿久津さんの様子を目の当たりにしていました。「このクロッキー帳はアイデアや様々な記録、イメージやイラストを思い立った時に描きためられるように、常に持ち歩いているものなんです」。中身はXで発表しているイラストの原画がほとんどだそうですが、自分の思いを記した唯一無二のもの。気持ちは痛いほどわかりました。

Xから始まった善意の連鎖

その後、別の参加者のアドバイスで、現地のガイドさんに忘れた場所とサイズや表紙の色、サインなどクロッキー帳の細かい特徴を伝えて捜索を依頼しました。ただ、ガイドさんからは「捨てられちゃう可能性が高いから、期待しないで」と言われていました。

「戻ってくると思っていた可能性は0%です。ほぼ諦めていました。出店(でみせ)や屋台のようなお店だった記憶もあり、外国人の忘れていった汚い落描き帳なんか、すぐ捨てられちゃうだろうな、と。本当にそのお店で失くしたかも分かりませんし」と、阿久津さん。

その後、日本に帰国してXを開いた阿久津さんは、クロッキー帳のことが拡散されているのを発見しました。「帰国前夜にXで呟いていたのですが、それを翻訳して中国のSNS・微博(ウェイボー)に載せてくださった人がいて。さらに、それをXで引用してリプしてくれた方がいるのを発見しました」。

その後も阿久津さんのWeChatには、中国で知り合ったシャンシャンファンの方を通じて「探すのでもっと詳しく特徴を教えて下さい」や、「寛窄巷子に探しに行ける」、「Weiboで拡散して呼び掛ける」などのあたたかいメッセージが届きました。「自分が半ば諦めて、のほほんと飛行機に乗って帰国している間に沢山の方が心配してくれていたことを知りました」と、阿久津さん。

一方、「ホテルのフロントでお荷物をお預かりしている的なことを言われて、なにかと思ったら噂の帳面でした」と話すのは、同じツアーに参加し、別の取材のために中国に残っていたパンダ写真家の高氏貴博さん。こうして無事に見つかったクロッキー帳は、高氏さんの手に託されました。

善意の連鎖が起こした奇跡

日本に戻ったら上野でまた一緒に観覧しましょうという話をしていたふたり。帰国後すぐに待ち合わせして、クロッキー帳のお渡しを兼ねて一緒にパンダを観覧したのだそうです。「その場で真っ先にお返しして、嬉しさのあまり記念撮影をしました。プライベートなものなので中身は見ていなかったのですが、そこで初めて中を見ることができました」と高氏さんは話します。

一方、クロッキー帳が手元に戻ってひと安心の阿久津さんは、「他人からしたらきっと使い古された汚れた手帳でしかありません。それが、日本と中国の、会ったことのない方々の善意の連鎖で手元に戻ったことが奇跡と呼ばずに何といいましょう」と感慨深げです。

さらに「日中、たくさんの方が心配してSNSを通じて連絡やコメントをくれました。中国の方が日本語で『せっかくシャンシャンに会いに中国まで来てくれたのに悲しい思い出にしてほしくない』というような内容のコメントを書いてくれたのを見たときは、うるっときました」と話します。

今回の出来事については、「ネットと、シャンシャン(パンダ)がつないだ現代ならではの奇跡です。国境を越えて、優しさや思いやりがつながれる事実を知ることができました。外国人のクロッキー帳を捨てずに保管してくださった店主さん、現地で探してくださった方々、心配してくださったガイドさんやネットで拡散してくださった方、持ち帰ってくださった高氏さん、みなさん、本当にありがとうございました。本当にいろんな方に助けられて自分があるんだと実感させられました。貴重な経験と思い出を、本当に、本当に、ありがとうございます。真的非常感謝!」と語ってくれました。

クロッキー帳を持ち帰ってくれた高氏さんも「シャンシャンに再会することが、一番の目標であったことはもちろんですが、パンダを通じた日中の交流ができたことも今回の旅の大きな目標であり成果でした。このような形で草の根でも交流でき、ここでも中国の方の暖かさにふれることができて感動しております」と話します。

国は違えどパンダを愛する心は同じ。中国のパンダファンのやさしい気持ちが、クロッキー帳を阿久津さんの元へと導いてくれたのでしょう。大熊猫太【阿久津 優 Akutsu Yu】@panda_y_akutsu さんのXでは、かわいいパンダのまんがや旅のお話がたくさん紹介されています。

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