米中、日中会談で見えた習国家主席のジレンマ 避けたい外資流出…しかし演出したい「強い中国」

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今月APEC会合に参加するためサンフランシスコを訪れた中国の習国家主席は、相次いで米中、日中首脳会談を行った。米中が経済や安全保障の分野で対立を深めるなか、今回の米中会談では軍事衝突など不測の事態を回避するため、双方の軍当事者間での対話を再開させることで一致した。昨年夏にペロシ米下院議長(当時)が台湾を訪れたことで、中国は台湾を包囲するような大規模な軍事演習を行い、米国との軍当事者間の対話を一方的に停止した。また、地球温暖化対策、人工知能分野での規制など協力可能な分野で協調していくことでも一致した。

一方、台湾情勢や先端半導体分野では依然として従来どおりの主張となった。バイデン大統領が台湾周辺での軍事行動を自制するよう呼び掛けたのに対し、習国家主席は米国による台湾への軍事支援の停止を呼び掛け、台湾は内政問題だとの姿勢を貫き、台湾に侵攻する計画はないので、米国は平和的統一を支持するべきだと主張した。また、昨年秋、米国が中国による軍事転用を防止するべく、先端半導体分野で対中輸出規制を強化するなか、中国はそれを是正するよう求めたが、議論は平行線で終わった。

そして、習国家主席は岸田総理とも会談した。会談で日中双方は互いが利益を享受できる戦略的互恵関係の推進を再確認するとともに、新たな日中関係を構築していくため意思疎通を重ねていくことで一致した。米中会談と同じく、温暖化対策など日中間でも協調可能な分野では協力していくことで一致した。一方、尖閣諸島や台湾情勢では改めて大きな隔たりがあることが浮き彫りとなり、日本側は中国による日本産水産物の輸入停止措置の即時撤廃を改めて求めたが、この問題でも進展はなかった。

一連の会談から、習国家主席は大きなジレンマを感じていると筆者は考える。まず、米中首脳会談において、習国家主席は最悪のケースを回避することと、協力可能な分野では協力するという歩み寄りの姿勢を示したが、その核心は米国との関係を現時点で必要以上に悪化させたくないという想いだ。中国経済の成長率は大きく鈍り、不動産バブルの崩壊や高い若者の失業率、外資の脱中国など、今日習政権は大きな経済的難題に直面している。国民の不満や怒りの矛先が政権に向かうことを避けたく、習政権としては外資が中国から離れないようにするためにも、米国との関係を可能な限り安定化させておく必要がある。

一方、国民に強い指導者を示すためにも、譲れない分野では妥協は一切許されない。台湾や尖閣、南シナ海など安全保障上の問題はその中核にあり、こういった問題で米国や日本に対して接近する姿勢を示せば、それは国民によって弱腰となり、弱い中国を内外に示すことにもなる。日中首脳会談では、日本が輸入停止の即時撤廃を求めたが、これも習政権からすれば、核汚染水から国民を守るために取った措置であり、簡単に撤廃という妥協措置は取れない。中華民族の偉大な復興や社会主義現代化強国の実現など、習政権は理念や目標を掲げているが、現実問題との間で大きなジレンマを抱えていると言えよう。

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