ビルの中を快適に移動する手段として欠かせないエレベーター。日本のエレベーター技術は、信頼性、安全性ともに、世界でもトップクラスといわれている。そんなエレベーターの研究施設として、地上高213.5メートルという日本一の高さを誇るのが、茨城県ひたちなか市にある「G1TOWER(ジーワンタワー)」だ。建設の経緯や、この施設ではどのような研究が行われているのか、日立ビルシステムの広報グループに聞いた。
高速・大容量の機種を試験するために、これだけの高さが必要に
茨城県ひたちなか市に、ひときわ目立つタワーがある。これは日立製作所がエレベーターの研究・開発・試験を行うための研究施設で「G1TOWER」と呼ばれる。
「G1」とは「グローバルナンバーワン」という意味を表している。
これだけの高さがある施設が、なぜ建設されたのだろうか。
「世界的な高速・大容量エレベーターの需要増に対応するため、当時の研究塔よりも実機試験の可能範囲が広い研究塔が必要と判断されたためです」
従来の研究塔は高さが90メートルあり、現在も運用されている。その2倍以上もの高さになったのも、理由があるという。
「2007年に建設が始まりましたが、当時の開発目標であった分速1,080メートルの高速機種、または分速600メートルかつ積載質量5トンという大容量機種の試験に必要な高さでした」
また、この年は日立製作所が創業100周年を迎える節目の年でもあり、メモリアル的な意味もあったようだ。
「これまでの100年で培ってきた技術の集大成と、これからの新しい100年を創るということで、100+100で高さ200メートルとして建設を進めましたが、避雷針などの付属物を含めて213.5メートルになりました」
この「G1TOWER」では、エレベーターに関する、あらゆる研究が行われている。
「安全装置のひとつである非常止め装置の開発は、実際にかご(人が乗る部分)を落として止める試験をします。ほかに、ちゃんと走って止まるかを確認する駆動制御装置の動作確認試験、実際にかごを動かして振動がないかを確認する乗り心地の試験などをしています」
ちなみに、日本のエレベーター技術は、世界的に見てどのくらいのレベルにあるのだろうか。
「最高峰だと自負しています。世界最高速クラスのエレベーターは、中国や中東など新興国に集中していますが、そのほとんどが弊社をはじめとする日本製です」
エネルギーは速度の2乗で大きくなるため、エレベーターが高速になるほど、その制御は難しくなる。万が一に備えた安全装置も、そのエネルギーを抑え込めるだけの巨大で高性能なものが必要になるという。
乗り心地に関しても、レールのわずかなゆがみが大きく影響するため、施工技術にも職人技が求められるそうだ。
「日本がエレベーター技術で強いのは、地震が多い国で、品質要求が厳しいためと考えています」
「G1TOWER」からは、ギネスに認定された世界最高速のエレベーターも生まれている。
「2019年に中国広州市の周大福金融中心(CTF Finance Centre)というビルに納めたエレベーターで、分速1,260メートルです」
もちろん速いだけではなく、エレベーターを確実且つ安全に停止させるため、電子式終端階減速装置(電子式ETSD)といいうシステムも併せて開発されたという。
あの都市伝説の真相を尋ねてみた
エレベーターを吊っているワイヤーが、何らかの理由で突然切れて落下したら、中に乗っている人はどうなる? そんな想像すらしたくない事態に対し「地面に叩きつけられる直前にかごの中でジャンプすれば、衝撃を避けられて助かるかもしれない」という都市伝説は、はたして本当なのか? 敢えて尋ねてみた。
「正しくありません。第一に、エレベーターの仕組みとして、地面に激突することはありません」
エレベーターには何重もの安全装置が施されており、ロープは積載重量の10倍の荷重をかけても切れないとのこと。
仮に、すべてのロープが故意に切断されても、エレベーター自体がレールに食い込むことで落下を防ぐ「非常止め装置」がついているそうだ。
「日立としては、これまでエレベーターが落下する事故は、創業以来一度も確認しておりません。次に、それでも何らかの予期せぬ理由で、エレベーターが落下したとします。その場合、落下速度は非常に速いものとなりますが、人間のジャンプ力は到底それに及ばないため、落下スピードを相殺できず、助からないものと推測します」
この取材をした矢先の今年10月18日、中国・雲南省にある4階建ての商業施設で、客を乗せたエレベーターが突然落下し3人が死亡、17人が重軽傷を負う事故が発生した。
「他社製のエレベーターですのでコメントは差し控えますが、何重にも張り巡らせているはずの安全装置がすべて故障するということが発生すれば、このようなことが起き得るということです」
日本では年に1回の法定検査が義務付けられているほか、建物によって周期は異なるが月に1回以上の定期点検が行われている。したがって、中国で発生した事故は、日本国内ではまず考えられないケースとのことである。
◇ ◇
▽日立ビルシステム
https://www.hbs.co.jp/