山口県宇部市に、民間企業が保有する専用道路としては日本一長い31.94 kmに及ぶ道路がある。セメントの原料となる石灰石を輸送するため、9年3カ月の期間をかけて建設された。現在はUBE三菱セメント株式会社が、大型の専用トレーラーを運行している。建設された背景や運用について、同社総務部広報室に聞いた。
一般の高速道路と同じ基準で建設
この専用道路は山口県宇部市から同県美祢市に至る「宇部伊佐専用道路」といい、宇部興産株式会社(現、UBE株式会社)がセメント事業を分社化する前の1968年4月から1977年6月にかけて建設された、日本一長い私道である。一般の高速道路と同じ基準で建設され、場所により片側2車線と1車線の区間がある。
2022年にセメント事業が分社化された後は、UBE三菱セメント株式会社が保有している。
旧宇部興産は美祢市伊佐で産出する石灰石を宇部地区へ輸送するため、かつては鉄道とトラックを利用していた。しかし、鉄道は輸送量が不安定で、トラックは交通渋滞の影響を受けやすい欠点があったという。
「当時の社長・中安閑一は、早くから、長期的に見て何らかの抜本策が必要であると考え、宇部から伊佐間の物流体制を整備する構想を抱いていました。その手段として、ベルトコンベアー、鉄道、道路の3案について検討した結果、建設経費や経済性から見て、ベルトコンベアーが最も有利と考えられました」
それに比べると鉄道はやや劣り、道路は費用対効果が見合わないと考えられたのだが、中安社長が選択したのは道路案だった。
これに対して社内はもとより、株主や取引金融機関から「リスクが大きい」と、批判的な声があがったという。
「中安があえて道路を選択した理由は、ベルトコンベアーは建設費を安く抑えられるが、貨物の種類が限定されるため、大型機材の輸送ができないこと。鉄道は国鉄(現JR)と競合しました。道路なら多目的に利用でき、美祢地区の地域振興にも寄与できます。経済性の問題は、100年先まで想定した道路の開設であり、沿道で採れる粘土や珪石はセメント原料に利用できるとの判断でした」
道路のメンテナンスと安全運行の監視も自社で行う
建設工事は2期に分けて行われた。第1期が1968年4月から10月、第2期が同じく10月から1977年6月にかけて行われた。また1980年6月から1982年2月にかけて、宇部市の「小串」と「西沖の山」の間を結ぶ「興産大橋(全長1,020m)」も建設された。
輸送業務は別会社が行っており、現在運行されている車輌は4種類。いずれもトレーラーを2台連結したダブルストレーラーである。
▽スウェーデンのスカニア社製
16リットルV8ディーゼルターボエンジン650馬力。12段オートマチックトランスミッションを搭載。
▽オーストラリアのケンワース社製
15リットル直噴ディーゼルターボエンジン600馬力。18段マニュアルトランスミッション搭載のボンネット型。
▽いすゞ社製
16リットル直噴ディーゼルターボエンジン520馬力。16段マニュアルトランスミッション搭載。
▽スウェーデンのボルボ社製
13リットル直噴ディーゼルターボエンジン540馬力。12段オートマチックトランスミッション搭載。
※共通のスペックとして、積載量は約88トン(1トレーラー当たり約44トン)、最高速度が90km/h(道路内での制限速度70km/h、平均速度50km/h程度)。27台が1日10往復しているという。
「これらの車輌を運転するドライバーは、大型免許と牽引免許を取得していることが必須です。また、輸送会社の指導員が同乗して1カ月程度の教習を受け、社内の認定試験に合格しなければなりません」
認定試験は実技のほか、一般的な交通ルールと社内ルールを確認する面接が行われるという。
総重量が約130トンにもなる車輌が日々走行するため、路面の損傷が激しい。
「道路補修工事を計画的に実施して路面状態を良好に維持しているほか、沿線や弊社が所有する土地の雑木が大きく成長していると伐採作業、荒れた路面の補修、防音壁設置や防音植樹などを実施しています。また、近隣住民への騒音対策として、地域によって異なる制限速度を設けています」
専用道路とはいえ、大型の車輌が高速で走行するので、安全と安定運行を確保するための対策も重視されている。
「パトロールを実施して、通行車輌のルール違反監視などを実施しています」
走行速度を監視するための自動監視システムや、検問・立哨などを併用して安全運行にも努めているという。
冬に雪が降ったり路面が凍結したりしたときは、除雪や融雪作業もやはり自分たちで行うそうだ。このような多くの人たちの努力によって、セメントが安定供給されているのである。
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▽UBE三菱セメント株式会社
https://www.mu-cc.com/