先輩の寿命が近いと悟り、雄鶏がとった行動は? いつもいじめられていたのに…優しいニワトリのお話

岡部 充代 岡部 充代

 米ワシントン州に住むクラーク家には1匹の犬と14羽のニワトリがいます。隣家から5羽のニワトリを譲り受けたことをきっかけに、これまで約40羽のニワトリと暮らしてきました。購入したり、譲ってもらったり、家で卵からかえったり……家族になった経緯はいろいろですが、今では庭に雄鶏、雌鶏別々の小屋があり、午前中は雄鶏が、午後は雌鶏が庭へ出してもらって、自然を満喫していると言います。

 

いじめられっ子のキングたかし

 奥様の佳世さんが、忘れられない1羽のニワトリについて話してくれました。名前は「キングたかし」。いろいろあって、この名前になったそうです。

 たかしくんがクラーク家にやって来たのは2018年。元の飼い主さんが「ほかのニワトリにいじめられてかわいそうだから、だれかにもらってほしい」とFacebookに投稿したのを偶然見つけ、2羽を引き取りました。

「両方、雌鶏と聞いていたのに、たかしは男の子で…」

 佳世さんは最初、残念に思ったそうです。なぜなら、雄鶏は攻撃的な子が多く、飼うのを避けていたから。でも、予想に反してたかしくんはとてもおとなしく、むしろ雌鶏たちに追いかけられて逃げ回るような子でした。体も小さくて、「手を差し出すとひょいっとすくい上げることができて、そのまま手のひらに乗せて近所を散歩したものです」(佳世さん)。なんともほほえましい光景ではありませんか。

 

「雄鶏は『コケコッコー』と鳴くのが普通ですが、たかしは鳴いたこともなくて。家族で『この子は鳴けないんだね』と話していたくらいです」(佳世さん)

 そんなたかしくんがある日、“悲鳴”のような鳴き声をあげました。もともと雌鶏たちが苦手で、佳世さんを見つけると「守ってくれ!」と言わんばかりに飛んできたたかしくん。特にアンシャーリーちゃんという雌鶏にはしょっちゅうつつかれたり蹴られたりしていて、悲鳴をあげたのもアンちゃんへの恐怖心からだったようです。

 

 気が強く、ボス的存在だったアンちゃんの様子がおかしくなったのは、2019年のクリスマス前でした。相変わらずたかしくんをいじめてはいるものの、「何かがおかしい」と感じた佳世さん。2日後にはみんなと一緒に行動しなくなり、庭の隅に座り込むようになりました。

 寒くなってきたため、小屋の中にある卵を産むための小さな箱に入れてあげると、その中にじっと座っていたアンちゃん。実はそのとき、小屋にはたかしくんもいました。

「いつもなら、アンが入ってくると間髪入れずに出て行くのに、そのときは逃げずにアンを見つめていました」(佳世さん)

 佳世さんはたかしくんにこうお願いして小屋を出たそうです。「アンは具合が悪いから、そばにいてあげてね」。

 先輩ニワトリの最期に寄り添い…

 翌朝、小屋の扉を開けた佳世さんは、信じられない光景を目にします。アンちゃんがいる箱の中にたかしくんも一緒に入り、アンちゃんを温めるかのように、寄り添って眠っていたというのです。

 たかしくんは動こうとせず、何時間もそのまま。昼過ぎに庭を歩くたかしくんを見つけた佳世さんが小屋に行ってみると、「アンはもう無理だろうと分かる状態でした。そして、15分後くらいに息を引き取ったんです」(佳世さん)

 たかしくんは“お別れ”が近いことを分かっていたのでしょう。

 

 アンちゃんが旅立ってからというもの、たかしくんは小屋に戻らなくなりました。それまでは午後3時くらいになると小屋に戻り、そのまま眠りに就く子だったのに。

「玄関とガレージの間で呆然と立ちつくしていることが多くなりました。さみしそうに見えて、たまりませんでしたね」(佳世さん)

 見かねた佳世さんは夕方、玄関の中にたかしくんを入れ、1時間ほど一緒に過ごしてから小屋へと連れて行くようになりました。数か月後にアンちゃんのもとへと旅立つまでずっと。

「一番苦手だったはずのアンの最期に寄り添ってくれたたかし。それはもう“愛”以外の何物でもないですよね」(佳世さん)

 今は天国で寄り添って眠っているでしょうか。

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