多頭飼育崩壊現場から野犬状態で保護された犬が家族の悲しみ癒す 愛犬を老衰で亡くした喪失感を埋めてくれたドライブ大好きワンコ

渡辺 陽 渡辺 陽

鉄平くん(4歳〜7歳・オス)は、2021年3月15日、秋田県動物愛護センターワンニャピアで、秋田県在住のYさんに出会った。その後、毎日面会に行き、3月20日に迎えたという。

鉄平くんを引き取る10日前、Yさんは大切な愛犬を老衰のため亡くした。
「寂しくて心にポッカリ穴が空いたようで、家の中も毎日お通夜状態でした。特に父ちゃんの憔悴が酷く、見かねた息子が『早く次の犬を迎えようよ』と、提案してくれた。それがきっかけで早速愛護センターへ出向き、面会をしたのが鉄平くんだったという。

「同時期に3匹センターに入って、他の2匹は早々に貰われて行ったらしいのですが、職員さんが『この子だけ残っちゃったんだよな』とおっしゃっていました。鉄平は、1匹だけポツンと座っていました」

初日は、部屋の隅に隠れてじっと様子見をしていた。知らんぷりしていると、だんだん家の中をウロウロし始めた。その日に父ちゃんを主人と決めたらしく、翌日には父ちゃんと散歩に行くことができた。半年ほどで家族全員に慣れてくれたという。ただ、なぜか前脚だけは触らせてくれないので、いまだにお手ができない。

名前は、大好きな楽天イーグルスの鉄平選手に因んでいる。大規模な多頭飼育崩壊の現場で保護された子だった

多頭飼育崩壊の現場から保護

センターから引き取る際、「野犬状態だったが牛小屋で暮らしていて、エサは時々もらっていた。これ以上は個人情報なので教えられない」と言われたという。

Yさんは、鉄平くんが慣れてくるにつれ、どんな環境で育ったのか気になってきた。

「我が家に来て10カ月ほど経った時に秋田県藤里町で犬の多頭飼崩壊が起き、飼い主が逮捕されるという事件がありました。地元紙で大きな記事にもなりました。2012年〜2022年に、野犬状態の犬がなんと141匹も捕獲されていたそうです。もしやと思いネットで調べたら、やはり鉄平も、その多頭飼崩壊現場で保護されていたことが分かりました。その時の画像が鉄平のツイッター(X)の固定ポストになります」

地元紙の記者によると、凄まじい現場だったという。糞尿が膝まで溜まり、死体もあちこちに放置されていたそうだ。

家族の潤滑油

鉄平くんは何に対しても慎重な性格だ。人には、慣れるまでは全く愛想がない。食べ物も初めての物は慎重に匂いを嗅ぎ、なかなか口にしない。雷や花火の音は平気なのに、なぜかハエ叩きの音が怖くて一目散に2階まで逃げて行く。

リードが付いた状態で走るのが好きで、一緒に走らされる父ちゃんはゼーゼーハァハァ。最近はドッグランでも走れるようになってきた。また、父ちゃん自慢のキャンピングカーで車中泊しながらのロングドライブが大好きだ。

家族以外には懐いていないが、唯一、近所に住む姪っ子が大好き。遊びに来ると物凄くはしゃぐという。

「当初オモチャで遊ぶ事も知らなかったのですが、姪っ子が一緒だと楽しそうに遊んでいました。犬らしい遊びを教えてくれたのは姪っ子かもしれません。反動で、帰ってしまうと落ち込みが激しいのですが…。その姪っ子も高校生になり、なかなか遊びに来れなくなって鉄平は最近少し寂しいのです」

鉄平くんは家族の潤滑油だ。

「いるだけで笑顔になり癒されます。過酷な多頭飼い崩壊現場で生き延びて来て、幸せになってもらいたいと思っていますが、逆に幸せをもらっています」

多頭飼崩壊で保護された犬のうち、人慣れしない31頭が殺処分対象になったという記事が新聞に掲載された。秋田県も、譲渡に向けての訓練を必死に行っている中での苦渋の決断だったという。

Yさんは言う。「全頭助けるのはやはり難しいでしょう。しかし、鉄平と一緒に暮らした仲間だと思うとやるせない気持ちになります。人間の都合で不幸になる動物がいなくなることを願うばかりです」

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