制作段階から苦情が殺到した日韓合作のホラー映画がある。苦情の理由は、実在する駅を血塗られた呪われた場所として描き、タイトルにも思い切りその駅名を冠したから。
しかし蓋を開けてみたら思いもよらない反応が返ってきたそうで…。
役所からもクレームが
韓国からオンライン取材に応じたチョン・ヨンギ監督は、映画公開前の韓国での反応をこう振り返る。「実在する駅を呪われた場所として描くことについての苦情や、タイトルに駅名を入れることに対する反対意見はありました。製作会社に苦情の手紙も届いたし、役所からも3回ほどクレームが入りました。プロデューサーのイ・ウンギョンさんは誠心誠意対応してくれました」。
映画公開前から韓国をざわつかせたのは、韓国発のウェブコミックを原作にした映画『オクス駅お化け』(10月6日公開)。『リング』の名脚本家・高橋洋と『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』監督の白石晃士というJホラーの強者(つわもの)が気合を入れてシナリオを手掛けた構想9年の日韓合作ホラーだ。
新人記者のナヨンは、地下鉄オクス駅で発生した人身事故の記事を拡散狙いで書く。しかし取材を進める中で、被害者以外に「線路に子供がいた」という奇妙な目撃談が出てくる。ある目撃者は、取り憑かれたように謎の数字をブツブツと連呼するのだった…。
『リング』への意図的オマージュ
原作コミックがあるとはいえ、井戸、地下鉄、廃駅、薄暗い公衆トイレ、気味の悪い長髪の女性というJホラー臭プンプンの素材が数多く映し出される。
ヨンギ監督も「脚本を読んだ時にイメージしたのはJホラーです。辺鄙な場所にポツンとある井戸のショットは『リング』に出てくる呪われたビデオに対するオマージュです。日本の観客の方には貞子を思い出してもらえるのではないかと思います。クライマックス近くに出てくる井戸に関わる場面も『リング』に対するリスペクトを込めて意図的に演出しました」と影響を認める。
臨場感を出すために全編手持ちカメラで撮影。物語に深みを与えるために、通常ホラー映画では使用されないメロディアスな音楽を採用。さらにJホラーだけではなくハリウッドの古典映画のような雰囲気も意識したという。
「カメラの構図やピントの深度、美術配置の点においては、マーティン・スコセッシ監督が『恐怖の岬』をリメイクした『ケープ・フィアー』からインスピレーションを得ています。過去と現在が交差するストーリーという点においても共通項を感じました。目指したのはシンプルかつ力強いストーリーテリング。飽きさせることなく観客をクライマックスまで連れていきたかった」。
一転SNS上でプチブーム
オクス駅はソウルのど真ん中に位置する駅。再開発以降は地価も爆上がりし、いわゆるセレブ街に位置する。そんな場所をホラーの舞台にしたら苦情が出るのも理解できるが…。
逆風を跳ねのけて映画を完成させた結果、小規模公開ながらも初登場3位という大健闘。しかもSNS上ではあることがプチブームになったらしい。
「韓国公開時、『オクス駅お化け』を観てからオクス駅に行こう!というちょっとしたブームがSNS上で起こりました。オクス駅は多くの人が利用する駅なので、写真を撮ってSNSにUPする人がとても多かったです。苦情?映画公開後はパタリと止みました」と意外過ぎる結末を教えてくれた。
126の国と地域に拡大
『オクス駅お化け』は126の国と地域にも拡がり、日本では10月6日から公開される。「日本のホラー界の巨匠2人が携わってくれたこともあり、日本で公開されることが何よりも嬉しいです。日本の観客の皆さんには日本と韓国がタッグを組んで生み出したハイブリットなホラーを楽しんでもらいたいです。この映画を気に入ってオクス駅を訪れるようなことがあれば、私が案内して差し上げます」。
ヨンギ監督はジョークを交えながら日本でのヒットを願っている。