「宝塚歌劇時代は、派手なほうではなかった」元トップ娘役の仙名彩世 「びっくりしてほしい」と新たに熱中しているのは?

小野寺 亜紀 小野寺 亜紀

現在「永谷園」のテレビCMで、明るい笑顔と美声を届けている仙名彩世(せんな あやせ)。宝塚歌劇団花組で明日海りおの相手役としてトップ娘役を務め、2019年に退団後も多くの舞台で高い実力を発揮している。そんな彼女が今夢中になっているのが、プロ級の腕前と評判のミニチュアフード。指先ほどの可愛いアートに込めたこだわりや今後の夢、さらに娘役時代のアクセサリー作り秘話や当時の思いについてインタビューした。

3年前からミニチュアフード作りに没頭

『ミス・サイゴン』『ジェーン・エア』など数々の舞台に出演するかたわら、独学で習得した技術でミニチュアフードを制作し、インスタグラムで披露している仙名。最初に始めたのはコロナ禍となった2020年6月頃だったそう。

「ステイホームになり、何か自宅でできないかなと思って。もともとシルバニアファミリーが好きで、小さな食べ物を作ってみたいなとは思っていました。宝塚を卒業してすぐに出演した舞台『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』でご一緒した濱田めぐみさんが、ミニチュアフードアーティストのSNSを見せてくださり、『いつか作ってプレゼントしたい!』と思ったのもきっかけでした」。

「宝塚に在団中は趣味に熱中する時間がほとんどなかった」と笑って打ち明ける彼女。制作にあたりSNSやネットで公開されている画像を見ながら、まずトンカツとエビフライを作ったという。「やっぱり一つのものを作るのにも時間はかかりましたが、『美味しそう』『食べたいな』と味を想像していただけるものを作りたいと思いました。スーパーで食材をよく観察するようにもなりました」。

基本的に使うのは樹脂粘土。フルーツなどは透明粘土と言われるものを使い、素材感まで追求。「最初はできるだけコストをかけず、どれだけクオリティの高いものができるかを試したのですが、より極めていこうとするとある程度のものが必要になり…。ここでしか買えない!という材料も出てきて、せめぎ合いです」と苦笑。乾麺には美容用のシリンジ(注射器)の先端を加工し、粘土を注入して絞り出したそうだ。「真っ直ぐ、同じ細さに絞り出すのが難しくて何度も練習しました」。

器も全て手作りで彼女のセンスが活かされている。「パスタの皿は石の粉の粘土を使い、油性ペンで着色してニスを塗ったり。最近は電動のミニろくろを使い、オーブンで焼いて陶器のように仕上げ、ラーメンのどんぶりなどに活用しています。机に置いたとき、トントンと音がするほうが本物っぽいですし、ある程度の重さがあるほうがいいなと思って。それもまた集中できて楽しいです!」と、どんどんバリエーションが広がっている。

個展はいつか絶対やりたい

今年7月、大阪・福島に誕生したスクール・コミュニティ施設「ACTLABO OSAKA」でのオープニング企画展「エンジテノアート」(〜2023年8月20日)に、彼女のミニチュアフードも展示されている。一般向けの展示会で披露するのは初めてとのことだ。

今後、個展を開いたり、アートの販売といった仕事に繋げていく夢はあるのだろうか。「作っていてとても楽しく、ずっと続けたいので、ぜひ仕事にできたらうれしいです。個展はいつか絶対やりたいなと思っています。今、いろんな方の個展やアートイベントを見に行きながら勉強しています。やはり空間づくりが大事だなと。小さいものだけ置かれているより、写真を飾り視覚的に大きなものと比べていただけるようにするのがおもしろいかな」と夢を膨らませている。

色鮮やかな和菓子、出演作に登場する国にちなんだグルメなど、さまざまなジャンルに挑戦している仙名。「プレゼントさせていただくことが多く、完全に自己満足なのですが(笑)、喜んでくださる顔を見るのがうれしくて! やっぱりミニチュアフードを見てびっくりしてほしい、笑ってほしい。『こんなものを作ってるの!?』とおもしろがってほしいんです。それが大きなモチベーションになっています」と明るい声で話す。

また彼女自身、このアートを始めてからオンとオフの切り替えがうまくできるようになったという。「プライベートでも役のことを考えて、うまく息抜きができなかったのですが、ミニチュアフードを始めてからは意識しなくてもこれに没頭でき、いいリフレッシュになっています」。宝塚歌劇団に首席で入団、ストイックに芸に打ち込む印象の仙名にとって、ミニチュアフードに向かう時間は舞台に立つうえでも意味あるものになっているようだ。

 卒業公演での思い出深い手作りアイテム

宝塚歌劇団には11年以上在籍した仙名。トップ娘役になったのは初舞台から8年以上経ったタイミングで、決して早い就任ではなかった。でもそれまでにヒロインを堂々と演じるなど実力派娘役と言われた彼女ならではの活躍を重ね、花組トップ娘役に就任後も“娘役の鑑”として、歌やダンスといった芸はもちろん、立ち居振る舞いまで美しく輝き続けた。

そんな彼女の追求心が表れていたのが数々の手作りアクセサリーや頭飾り。宝塚歌劇団の娘役はこれらの多くを自分で制作する伝統がある。「遠くから見ても近くで見ても美しいものを、というのをポリシーにしていました。オペラグラスで観てくださる方にも『どうなってるんだろう』『きれいだな』と目を引くものにしたくて」。

舞台人として忙しい彼女は、「ギリギリにならないと動かないタイプということもあり、もうやらないと間に合わない!というぐらいの時期に作り出していました。いざ照明の前に立ち、衣装を着たらちょっと違った、ということもあるので、舞台稽古の休憩中も手を加え、公演が始まってからも変化させて。トップ時代はひとつの衣装や場面で2、3種類作っていました。妥協はしたくなかったです」と明かす。「結構(パーツの)解体もしていました。思い出のアクセサリーは取っておきますが、例えばネックレスで使っていた一部を頭飾りでまた使ったり。どんなパーツも残し、無駄のないように意識して」と工夫を凝らした。

思い出深いものとして、卒業公演『CASANOVA』のフィナーレ、トップコンビのデュエットダンスで身に着けていた頭飾りを披露してくれた。ブルー系のグラデーションが美しいドレスに映える、清楚かつゴージャス感のある繊細なデザイン。

「このときの衣装は色やイメージなど、デザイナーの先生が希望を聞いてくださり、私の言葉を膨らませて素晴らしいドレスを作ってくださったんです。そのドレスの端切れを事前に頂けたので、刺繍のところを切り取り、ビーズをあしらうなどして制作しました」。衣装とアクセサリー類との関連性をもたせることを常に意識していた彼女にとって、世界にひとつの集大成的な頭飾りだ。

また、当時の娘役としての心境も振り返る。「自分自身、派手なほうではなかったので、アクセサリーや頭飾りを華やかにすることで、自分を表現していたところがありました。足りない部分をアクセサリーに助けていただいた」と笑顔で語るが、男役を従えて押し出しのあるダンスを踊るなど、彼女にしか出せない華で観客を魅了していたのが思い出される。

宝塚を卒業後はその歌唱力や演技力を武器に、数々のステージで活躍。今年出演した『ジェーン・エア』では世界的な演出家、ジョン・ケアード氏に「君たちは最高だ」と何度も言われたことが印象に残っている。「そうやって言っていただくことが自信に繋がり、表現の幅が広がったのを実感しました。自分も誰かを肯定することの大切さを学びました」。

今年後半はミュージカル『のだめカンタービレ』の三木清良役や、俳優・中井智彦とのライブ『「CREATE」 Singers Live』などが控えている。「毎回新しい現場での出会いによってたくさんの刺激があり、いろんな方から影響を受けて自分自身変わっていけるのが、宝塚時代とはまた違っておもしろいです」。常に感謝の気持ちを忘れない彼女の想いやこだわりが、今後どんな表現として表れるのか楽しみだ。

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松下洸平、中越典子など俳優たちが多数参加している「エンジテノアート」は、大阪・福島の「ACTLABO OSAKA」で8月20日まで開催中、入場無料。ミュージカル『のだめカンタービレ』は10月3日~29日に「シアタークリエ」他で上演。『「CREATE」 Singers Live』は11月18日に「JZ Brat SOUND OF TOKYO」でおこなわれる。各詳細はオフィシャルサイトへ。

■ACT LABOオープニング企画 リコモーション&キューブアーティストグループ展
『エンジテノアート』
期間:2023年7月9日(日)〜8月20日(日)
時間:平日13:00〜20:00、土日祝11:00〜18:00 ※火・水曜、8月11日(金)〜8月16日(水)休
出展アーティスト:松下洸平、中越典子、仙名彩世、小松利昌、川原田樹、楠見薫、サリngROCK
会場:ACTLABO OSAKA(大阪市福島区福島7−1−10 2F【JR福島駅高架下】)
料金:入場無料

■仙名彩世OFFICIAL SITE  https://sennaayase.com/
■「ACTLABO OSAKA」 https://actlabo.jp

■ミュージカル『のだめカンタービレ』 https://www.tohostage.com/nodame/
■『「CREATE」 Singers Live』 https://udo.jp/concert/createsingerslive

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