60年近く続く喫茶店、最近の「食べない客」に困惑 残していく理由に「食べ物粗末にしたらダメ」「悲しい」

谷町 邦子 谷町 邦子

「ご注文後にお食事の写真撮影をされた後、食べずにお帰りになるのは、控えてください」。喫茶店の切なる願いに大きな反響があり、状況について取材しました。

X(旧Twitter)で投稿したのは喫茶店「日本橋 COFFEE LOTUS」(@lotuscoffee1966、以下、COFFEE LOTUS)。1966年に東京・日本橋で営業を始めた老舗です。どうやらフードを注文したものの、写真を撮るだけで手を付けずに帰ったお客さんがいるようです。

さらに、「メニューには出来る限り内容を明記しております。事前に苦手な食材をお知らせいただければ、可能な限り対応いたしますので、ご協力のほどよろしくお願いいたします。」という言葉も添えられ、お店側も配慮するのでできるだけ食べてほしいという思いがうかがえます。

「食べ物は撮影用アイテムじゃないよ。食べ物だよ。お店にも失礼すぎ。信じられない」「こういう人達は店側の方々の気持ちなんて考えた事も無いだろうな。もしくは宣伝してやってるぐらいの傲慢な考えかも…」
「食べ物粗末にしたらダメ!」
「こんなこと言わないといけないのが悲しい」

投稿には、お店に対する共感が多数寄せられていました。

また、料理に携わる人たちも、「ひどい…。お金払えばいいってもんじゃないよ。食べる要員が必要なら呼んでほしい」「食品ロスが増えるからてのもあるけど、何より食べものをつくるのに関わった人たちの労力や想いを考えると、こうした行いは哀しくなる」とコメントを寄せています。件(くだん)の投稿を引用する人も多く、お店のメッセージを広く届けたいという意思が感じられました。

「COFFEE LOTUS」店長の荒地(あらち)陽子さんにお話をお伺いし、状況を聞かせてもらうなかで、深い悲しみや提供するデザートメニューに込められた思いが伝わってきました。荒地さんは思わぬ反響の大きさに驚きながらも語ってくれました。

残されたメニューを見て…「何がいけなかったのか悩みました」

――「出された食事を撮影だけして手をつけずに残す」といったことは過去にもあったのですか。

「今回が初めてです。フルーツポンチをご注文いただきました。フルーツポンチは、カットしたマスクメロン(必ずついています)、飾り切りしたリンゴ、キウイ、ブドウ、オレンジ、スイカ、グレープフルーツ、バナナ、梨、柿、いちご(仕入れ状況で中身は変化します)など、季節の果物をカットしてポンチグラスにいれ、最後にソーダ水で仕上げています。お客さまはポンチグラスの角度を変えたり、座る位置を変えて撮影した後、会計を済ませてお帰りになりました。

過去には、トーストやサンドイッチについてくるフレッシュフルーツの盛り合わせ(5~7種類の果物をカットして器に盛り付けたもの)が手つかずだったり、サンドイッチやトースト(手で食べやすく6~8等分にカットしています)を少しずつかじって終了、ということも何度かありました。昨年6月以降から今回までで、ほとんど手をつけてもらえないことが数回ありました」

――そういったことが起こる時、提供するメニューや注文する人の属性(性別年齢など)に何か共通点はありましたか。

「性別は男女同じくらいで、年齢幅は広いです。今回のフルーツポンチが1回、トーストとサンドイッチについてくるフレッシュフルーツの盛り合わせが数回(当店では、トーストとサンドイッチに季節のフレッシュフルーツを入れた小鉢がついてきます)。一度、瓶ビールをご注文いただいた男性から、まだ残っているからお店で飲んでくれと言われたこともあります」

――その時の気持ちは?

「食材は、店主と私が試食をして両方が美味しいと思ったものだけを使用しています。ですので、手がついていない食材や少しずつかじった状態の食材を廃棄しないといけないときほど辛いことはありません。最初に生産者さんの顔が思い浮かびますし、食材に携わる方々に申し訳ない気持ちでお店として責任を感じます。

当日は、店主がホール担当で、店主が食器を下げる時にほとんど手つかずのフルーツポンチをみてショックを受けていました。私が調理を担当していたのですが、味に問題があったのか果物の品質などをチェックしましたが、果物が傷んでいるなどの問題はありませんでした。いつもは空になって調理場に戻ってくるポンチグラスに、マスクメロンも手つかずの状態で、ほとんどの果物とソーダ水が残されていたので、何がいけなかったのか悩みました」

――お店として何か対応される予定はありますか。

「お店は店主と私の2名しかいないため、初めていらっしゃったお客さまが食べずに残された場合は、会計終了後に食器を下げる時に気づくことがほとんどです。そのため、再訪された時に注文時に食べられるかどうかを確認いたします。9月から新メニューになるのですが、お店からのお知らせとして『苦手な食材がありましたら事前にお知らせください』という一文を追加します」

――最後に、お店として伝えたい思いを。

「店主と私は『一期一会』を大切に、一生に一度の出会いかもしれないことを念頭に置いて、日々料理を作り、珈琲を淹れ、花を飾り、内装を整え、掃除をしてお客様をお迎えしております。食材は、生産者、販売業者、輸送業者さんの努力で初めて手に入れることができるものであり、食材を無駄にせず調理し、お客さまに喜んでいただける料理を作ることを常々意識しております。ですので、写真・動画撮影だけをしてお帰りになるのは控えてください。苦手な食材やアレルギーなどが事前にお知らせいただければ、できる限りの対応をいたします。ぜひ、召し上がっていただければ幸いです」

 ◇ ◇ 

荒地さんのお話からは、使用する食材への鮮度や味などへのこだわりや生産者など提供してくれた人への強い思いが伝わります。「COFFEE LOTUS」に限らず、初めてのお店や注文したことのないメニューの場合、すべて食べきる自信のない人は、提供される量や持ち帰りの可否、使われている食材などを注文前に確認するのが良いでしょう。

見た目にも美しいメニューに出会ったことを写真や動画で伝えたい人もいるとは思いますが、まずは無理のない範囲で食べることで感謝を伝えるのが大切ではないでしょうか。

落ち着いた雰囲気のミッドセンチュリーデザインの店内で、ネルドリップで淹れたコーヒーを提供する「COFFEE LOTUS」は、季節のフルーツを使ったデザートメニューも好評。地元の人や近隣のオフィス街で働く人から、約57年もの間、愛され続けています。

【日本橋 COFFEE LOTUS】
住所:東京都中央区日本橋3-7-9
営業日:平日7:00-18:00(休憩14:00-15:00)
定休日:土曜、日曜、祝日

■「日本橋 COFFEE LOTUS」のXアカウント(@lotuscoffee1966)https://twitter.com/lotuscoffee1966

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