部屋の隅で震えていたね 「触るな」「構うな」と威嚇する野犬 数カ月後スタッフの思いが届いた

松田 義人 松田 義人

2021年6月、動物愛護センターに複数の野犬が収容されました。その中に一際、人間を怖がるメスのワンコがいました。名前はパッヘル。推定約1歳半ほどの白くフワフワした毛並みが特徴です。テリア風にも見えますが、動物愛護センターの職員によると、元飼い犬ではなく元野犬であるとのこと。

人間にはとにかく不慣れな様子で、写真の通り人間を見れば歯を剥き強く威嚇してきました。

「触るな」「構うな」「酷いことをするな」

このパッヘルを引き出すことにしたのが、広島を拠点に犬の保護・譲渡活動を行う団体、ピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)。これまでに数多くのワンコの命を救ってきた経験から、強く威嚇するパッヘルを前にしても動じることはありませんでした。

「大丈夫だよ。怖くないからね」とスタッフはパッヘルに声をかけ、ピースワンコの施設へと連れて帰ることにしました。

施設でのパッヘルはしばらくの間、部屋の奥のほうで小刻みに震えていました。おそらくは人間に馴れていないこと、環境が変わったこと、この先の不安などからくるものでしょうが、スタッフはそのたびにまた「大丈夫だよ。怖くないからね」と声をかけました。そのたびにパッヘルはクレートの中に逃げ込み、なかなか心を開く様子を見せてくれません。まるで「触るな」「構うな」「酷いことをするな」と言わんばかりの様子です。

パッヘルが、新しい里親さんと出会い、幸せな第2の犬生をおくるためには、まず人間に馴れてもらう必要があります。このため、スタッフはパッヘルのペースを最優先に心を開いてくれることを目指し、慎重に接するように心がけました。

「昨日は大丈夫でも今日はダメ」

当初こそコミュニケーションを取ろうとすると、ときに逃げときに歯を剥き威嚇していたパッヘルでしたが、少しずつ心を開いてくれるようになりました。「やった。心を開いてくれたぞ」と喜ぶスタッフでしたが、日によってパッヘルの態度は変わりました。昨日までは体を触らせてくれたのに、今日はまたご機嫌斜めで歯を剥き出すこともありました。本気で噛み付いてくるわけではありませんが、読みにくいパッヘルの気持ちを考え、スタッフは装備をつけてのトレーニングを重ねました。

散歩中に楽しそうな表情

なかなか難しい性格ですが、トレーニングを繰り返すことで、パッヘルの表情はいくらか優しいものに変わっていきました。

抱っこの練習を開始してから2週間後、リードにも慣れてきたので散歩の練習をすることになりました。急に外に出すと不安に感じることがあるため、まず見慣れた犬舎内で練習をすることに。パッヘルが不安を感じないよう何度も練習を繰り返しました。

約4カ月後、散歩ができるようになり、楽しそうな表情も見せてくれるようになりました。おそらくパッヘルの中で「もう人から逃げなくても大丈夫」「人に警戒する必要がない」と認識し始めたのではないかと思います。

スタッフは引き続きパッヘルのトレーニングを続けていきます。根気の要ることですが、パッヘルがいつかきっと完全に人間に信頼を寄せるようになってくれることを信じているからです。

これまで辛い思いをしてきたパッヘル。幸せな第2の犬生に向け、ピースワンコで少しずつ成長しています。

ピースワンコ・ジャパン
https://peace-wanko.jp/

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