「出べそ」スッキリで美熊っぷりUP! 見た目問題だけじゃない「命の危機」回避 32歳ホッキョクグマの難手術を振り返る

茶良野 くま子 茶良野 くま子

「出べそで手術?」
「背中の傷、痛そう…」
「元気になって良かった!」

神戸市立王子動物園のホッキョクグマ「ミユキ」(32歳メス)に来園者から労いの声がかかります。2023年3月に「出べそ」の手術を受け、6月下旬に展示が再開されたのです。体調が落ち着いたころ、同園は治療の経緯を公式ブログで公表し、手術に踏み切るまでの葛藤を記しました。そこには、動物の命を守るため、積極的治療の危険性を全スタッフが理解した上で、一丸となって挑んだ姿がありました。

獣医師の菅野拓(ひろき)さんに聞きました。

―出べそは目立っていました。何度か手術を?

「今回3回目です。前回は2016年でしたが、しばらくするとお腹の黒いもの、正式にはヘルニア嚢と言いますが、これが少しずつ大きくなって、ソフトボール大ほどに。プールに入ると目立つ程度だったのが、さらにバスケットボール大ほどになっていました」

 ークマに多いのでしょうか?

「症例数は少ないですが、あります。野生下での例は文献を調べましたが、見つかりませんでした」

―難しい手術だったそうですね。

「手術もそうですが、一番は『麻酔に耐えられるか』です。高齢のミユキにとって全身麻酔はリスクが大きく、その点について我々獣医師、飼育員ら全員が『最悪の事態』もあり得ることを共通理解して臨みました」

出べその中に腸管が入り込む状態になると激痛を伴い、腸閉塞のリスクがあります。命を落とすこともあるため、出べその中身が腸管ではないことは一昨年、麻酔下のエコー検査で確認。しかし、いつその状態に移行するか分からないため、緊急手術の可能性を考慮して準備を整えていました。

手術に踏み切ったのは、出べその表面が岩で擦れて傷ができるようになったため。岩の一部を削り滑らかにする工事もしましたが、傷はなくならず、傷口の化膿などが予測されました。その危険性が増す夏場は室内展示にするという方法もありましたが、ミユキのストレスになると考え、手術を決断したのです。

手術は3月22日、4~5時間かけて行われました。経過は順調でしたが、ミユキが壁などに背中をこすり付け、傷ができてしまいました。手術時に血流障害などが生じたためでした。この治療のため展示休止期間が延びたものの、結果的には出べそ手術の患部をしっかり回復させることができたのです。

3カ月もの療養期間。飼育担当の森田瑠奈さんに聞くと、「外が好きなミユキですが、室内でイライラしている感じはなかったです。クマは環境に順応しやすい動物だと思います」とのこと。11月には33歳になるミユキは、現在国内で飼育されている33頭の中でも最高齢。「エサの馬肉は小さくカットして茹でています。毎日5~8kgのエサをしっかり食べて調子は良いです。休園日の水曜は魚や肉は与えないでお腹を休ませています」と森田さん。

「展示休止中、外に出たミユキに剪定したサクラの枝を放ってあげたら、とても喜んでいました。小走りで駆け寄ってきたんですけど、その姿がものすごくかわいらしかったです」(森田さん)。背中の傷が痛々しかったので撮影した動画の公開は控えたそうですが、元気に過ごしていたことを教えてくれました。

王子動物園公式スタッフブログ記事「ミユキの臍ヘルニア手術について」はこちら(7月8日付) 

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