高齢化が進む日本において、加齢とともに発症率の上がる「認知症」は決して無視することのできない病気です。65歳未満の若い人が発症する「若年性認知症」や、最も患者数の多い「アルツハイマー型認知症」など、発症年齢や症状によって種類があり、なかでも、アルツハイマー型認知症に次いで発症者数が多いといわれているのが、「脳血管性認知症」です。発症原因や、そのほかの認知症との違いなど、吉田病院付属脳血管研究所(神戸市兵庫区)吉田泰久院長に詳しく聞きました。
――脳血管性認知症という病気があるのですね。
認知症のなかで最も多いのがアルツハイマー型認知症なのですが、次に多いとされるのが脳血管性認知症なんです。両方を合併して発症する方も多いですね。脳血管性認知症とは、脳内の血管が傷んできたことにより脳梗塞や脳出血を多発すると、そのうち脳全体の機能が低下し、結果認知症を発症するというものです。
――症状は通常の認知症と同じなのですか?
記憶障害や認識機能に症状が出るという点では、大きな違いはありません。ただ、脳血管性認知症の特殊な症状として、ある特定の1カ所を損傷するだけで認知症の症状が出てしまうという点があります。損傷箇所によって症状が変わるのですが、多くの場合が、小さな脳梗塞がたくさん起こることにより認知症が進行するため、アルツハイマー型認知症と似たような症状がみられます。
――急激に症状が出たり、消えたりすることがあるのですか?
そうですね。脳の血管の病気ですので、突然症状が出ることがあります。発症箇所がひとつ増えただけで認知症が始まってしまう可能性もあります。
――老化現象との違いの判断が難しいですよね。
症状が少しずつ進むタイプの人だと判断が難しい場合があります。一般的に脳卒中は手足が麻痺するのですが、麻痺症状がないまま密かに小さな脳梗塞が増えていくというパターンもあります。この場合、派手な発作が起こっていないにもかかわらず、認知症が進行しているということがあります。
――一般的に認知症の治療は難しいといわれていますが、脳血管性認知症は治療できるのですか?
症状を戻すということは難しいんです。そのため、認知症の発症が判明した場合はそこから進行しないようにする治療を行うこととなり、それは脳卒中を予防することと同じです。最も重要なのが血圧で、まずは血圧を正しい数値まで戻すための治療を行います。
――脳血管性の病気は再発することが多いといわれていますが、再発により脳血管性認知症が起こりやすくなるのですか?
そうですね。脳の損傷箇所が増えるほどに症状が進んでしまうんです。手足が麻痺する一般的な脳卒中と同様に、予防が最も重要です。
――脳血管性認知症を発症した場合、家族など周囲の人間はどのような点に気をつけたらいいのでしょうか?
まずは、症状が進行しないように生活習慣病を正していくことのサポートが必要ですね。症状が原因で機能を失い、できなくなってしまうことがあるのは仕方がありませんので、それを理解し、残っている機能を使いながら家にこもらないようにすることが大切です。徘徊などの症状が出てしまうと対応が非常に難しいので、その症状が出てしまうまでに患者自身でできることはしてもらって、朝には起床し、昼間は外出をして、夜には眠るという一日のリズムを作っていただければと思います。
◆吉田泰久 社会医療法人榮昌会 吉田病院 / 理事長兼院長 /
1952年12月の開設以来70年近くにわたり、神戸市の救急医療のなかでも脳卒中患者の診療を主に担い、急性期から回復期、在宅まで一貫した脳卒中治療を提供している。 診療科は、神経外科、脳神経内科、内科、循環器内科、リハビリテーション科。