医療法人奏仁会 大阪梅田紳士クリニック(大阪市北区)は、このほど「男性不妊の実態調査2024:男性の年齢と精子の質に関する最新データ」の結果を発表しました。それによると、年齢に関係なく「およそ10人に1~2人は乏精子症」であり、自然妊娠が困難な傾向にあることがわかりました。
調査は、2024年9月に同クリニックで実施した妊活前後の男性965人の精液検査結果を集計し、統計データをまとめたといいます。
同クリニックによると、現在、日本ではカップルの約15%が不妊に悩んでいるといいます。そのうち、男性側に原因があるケースは全体の約半数を占めている一方で、男性不妊に対する認識はまだ十分とは言えず、検査を受ける男性は限られているそうです。
女性の年齢が妊娠や出産に影響を与えることはよく知られていますが、男性の年齢も妊娠に関わるという点については、まだ一般的な理解が十分進んでいない状況です。
そこで、同クリニックでは、2022年1月~2023年12月までの期間に男性965人のブライダルチェック(結婚・妊娠に関連する健康診断のような検査)を実施。同チェックには大きく分けて、妊娠能力をチェックする精液検査と性感染症のチェックがあり、本調査では、精液検査のデータのみを抽出・分析することで、男性の年齢と精子の質、運動率との関係が明らかになりました。
同検査には、10代から70代まで幅広い年齢層の方々が参加しており、最も多かったのは「30代」(54.6%)で、全体の半数以上を占め、次いで「20代」(26.1%)、「40代」(15.3%)の順となっています。
年代別の「平均精液量の変化」をみると、年齢とともに少なくなっていくものの、40代までは比較的保たれている一方、50代以降は、平均精液量が大きく落ち込み、60代では20代の半分近くまで数値が落ちることがわかりました。
続いて「精子運動率の変化」についてみると、精子運動率は42%以上が正常とされ、この基準を下回ると、「精子無力症」と診断されるといいます。精子の運動性は、卵子に到達するために欠かせない要素です。運動率が低下すると、妊娠の可能性が下がることが知られており、精子無力症に該当する場合、年間の自然妊娠率が健常者に比べて半分ほどに落ち込むという報告もあります。精子無力症の割合は、年齢とともに精子の運動率が下がることが分かります。
さらに、精子の運動性を「良好な運動精子」「やや良好な運動精子」「やや不良な運動精子」「不動精子」の4段階に分類して、年齢別に比較してみると、年齢が上がるにつれて「良好」「やや良好」の割合が減少し、「不動精子」が増加することが確認されました。
精子濃度は、1600万/mL以上が正常とされ、この基準を下回ると、「乏精子症」と診断されます。乏精子症に該当する場合、程度にもよりますが、基本的には自然妊娠が健常者に比べて困難であるとされています。
そこで、年代別に乏精子症の割合を見てみると、「20代」は13.3%、「30代」は13.5%、「40代」は11.2%、「50代」は24.2%、「60代以上」は40.0%と、どの年齢層を見ても、概ね10%以上の人が該当することが分かりました。
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このような調査結果を踏まえて、同クリニックは「男性のプレコンセプションケアの重要性」について以下のように解説しています。
一般的に、男性側の妊娠因子として重要なのは、精子の運動性と数です。つまり、妊娠には運動性の良い精子が多数存在し、卵子に到達する可能性が高い状態を維持することが望まれます。しかし、今回のデータが示すように、加齢だけでなく、精子の状態は男性自身の健康状態にも大きく左右されることがわかっています。
一般的にプレコンセプションケアとは、将来の妊娠を意識した生活習慣の改善や健康への取り組みのことで、ここで言う男性のプレコンセプションケアは、妊娠を考える前の段階で、男性が自身の健康を整え、精子の質を向上させるためのケアを指します。
具体的に、まず大切なのは生活習慣の改善です。精子の健康を保つためには、禁煙や節酒はもちろん、日頃からの適度な運動やバランスの取れた食事を心がけることが大切です。また、肥満や過度な体重の減少も、ホルモンバランスを崩し、精子の数や運動性に悪影響を与えることがあるので、注意しましょう。
さらに、ストレスを管理し、しっかりと睡眠をとることも精子の質を保つ上で重要です。その他、感染症や性行為感染症の予防にも気を配り、定期的な健康診断や精液検査を受けることで、自身の健康状態を把握することを心がけましょう。
男性不妊は決して特殊な問題ではなく、多くの男性が向き合う課題です。精子の質は年齢とともに変化するため、早めに検査を受けることが、将来の妊娠に向けた大きな一歩となります。妊活の一環として、ぜひ一度精液検査を受けてみてください。