近畿道で突然走行不能 メンテできる工場がほぼ皆無 英フェレット装甲車を愛するオーナー、軍用車両の私設博物館を作った!

小嶋 あきら 小嶋 あきら

 以前、Twitterの投稿で、ちょっとコンビニに立ち寄った感じの装甲車を見かけました。ごく普通に普段使いされてるような、小型の装甲車。いったいどんな方が乗ってらっしゃるんだろう、気になって気になって…これは取材に行くしかありません。

大阪に突然現れるノルマンディーの町

 阪神高速湾岸線を天美で降りて10分足らず、ミリタリーアンティークス大阪に到着しました。ここは個人で営まれている私設博物館です。今日は休館日なのでシャッターは閉まってますが、装甲車が描かれているのでここで間違いありません。程なく軽やかな電動の音と共にシャッターが上がり、館長の松井さんが迎えてくださいました。

 外から見ると普通のガレージですが、シャッターの中は別世界。最初にふと感じた印象は「1/1のジオラマ?」でした。軍用バイクと軍用ATV、そしてTwitterで見たあのフェレット装甲車が並んでいます。背後の壁は古いヨーロッパの建物を再現されていて、ここがガレージとは思えません。

 

「テーマパークの内装などを手がけるプロにお願いしました。第二次世界大戦当時のノルマンディー地方の町をイメージしています」

 なるほど、映画で見たことがあるような景色です。

フェレット装甲車がお出迎え

 デイムラー・フェレット装甲車は全長3.7m、全幅1.91m。乗用車に当てはめると、横幅こそ3ナンバーですが全長は1000ccクラスのコンパクトカーくらいです。重さ3.7トンはさすがに重いですが、軍用車両、それも装甲車としてはかなり軽いほうです。

 デイムラーというとドイツのダイムラー・ベンツを思い浮かべる方も多いと思いますが、全く違う会社なのだそうです。エンジンはロールス・ロイスの6気筒ガソリンエンジン。これは大戦中のイギリス軍の戦闘機スピットファイヤのマーリンエンジンの流れを汲む、信頼性の高いものだといいます。乗車定員は3名(日本の車検では2名)、最高速度は時速93キロ、燃費はハイオクでリッター2キロ。

 こんな風に紹介していると、ちょっと燃費は悪いけど普通に道路が走れそう、と思ってしまいますよね。しかしこれ、なかなか敷居が高そうです。

 軽快性を活かして偵察を主な任務にするフェレット装甲車は、とにかくコンパクトに設計されていて、例えばハンドルは下向きに角度が付いています。普通、乗用車のハンドルは少し上向きですよね。シートに座ってちょうど良い位置に、回しやすい角度で付いてますよね。でも、フェレット装甲車は室内をコンパクトにして車体を小さくするために、ハンドルを真上から抱え込むようなドライビングポジションになってます。なので普通のクルマのようにクルクルと回すのは無理で、小刻みな「送りハンドル」の操作になるのだそうです。

 視界は左右の真横くらいまで。シートは車体の中央。そしてこのくせの強いハンドル。公道を走る上ではなかなかに手強そうですが、松井さんはこれで高速道路も走られます。あくまでも動態保存、実際に走ることができる状態をキープすることにこだわられているのですね。

故障の連続、でも車両と心が通じるときが

「海外の軍事博物館から買い付けたり、ときにはイギリスの国防省が開催しているオークションで退役した払い下げ車両を買ったりしていますが、買ってからが大変です。そもそも動態保存されている車両は少なく、払い下げ車両にしても調子の良い車体をわざわざ払い下げたりしませんよね。まず現地で動く状態にレストアしても、その後、海外から1~2カ月ほどかけて船で運んでいる内にまた状態が悪くなります。潮気や赤道直下の猛暑に晒されたり、空にしたタンク内などの錆が進んだり。日本に着いて、実際に乗れる状態にしてからも細かいレストア作業が続くんですよ。でも、ある時ふと『あ、もう大丈夫かな』と思う瞬間があります。これ以上故障しないような気がする、そういう予感というか、車両と心が通じるようになるというか。そうなると不思議とその後はほとんどトラブルがなくなりますね」

 

 このフェレット装甲車も、近畿自動車道を走行中に急に減速して走行できなくなったことがあるといいます。運良く非常駐車帯に止まれたので、そこにいつも一緒にメンテナンスをしてくれる整備士を呼んで、6時間ほどかかってようやく動き出せたのだそうです。

 「普通の自動車整備工場では絶対に見てくれませんし、レッカーも難しいですから、特殊な車両を扱った経験と知識を持つ整備士と一緒に自分で何とかするしかないんです。そういう覚悟は必要ですね」

 ここにある車両以外にも、松井さんのコレクションには履帯(よくキャタピラと呼ばれますが、あれは商品名なんですね)で走行するイギリス海兵隊の特殊車両や、ノルマンディー上陸作戦に参加した1940年式の軍用トラックなど、イギリス軍の車両がたくさんあり、6カ月ごとに展示の入れ替えをされています。また、車両以外にも野戦電話機や地雷探知機などの装備品、様々な火器なども随時展示されており、見どころの多い展示内容となっています。

 

 実際に見て、触って、乗ることができる私設博物館。普段なかなか接することのないイギリスのミリタリーに触れてみるのはいかがでしょうか。

 

ミリタリーアンティークス大阪
大阪府松原市。第二次世界大戦や湾岸戦争などの戦場で実際に使用されたイギリス軍の車両と装備品を展示。毎月1回の開館日。完全予約制。https://www.military-antiques.jp/

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