大河ドラマ「どうする家康」で五徳を演じている久保史緒里(くぼ・しおり)。五徳は織田信長の娘で、徳川家康の長男信康の妻となっていた。
徳川家康が正室・瀬名(築山殿)と長男・信康を粛清したことは、家康の人生における大きな悲劇のひとつとされている。その端緒となったのが、五徳が父・信長に書いた「告発状」である。「築山殿が不倫している医師を介して、武田家と密通している」などといった内容に不信感を持った信長は、家康に2人の処分を命じたと言われている。この事件の背景には、家康は浜松城を居城とし、本来の本拠地であった岡崎に信康を置いて、いわば「二頭政治」のようになっていたことがあるが、真相ははっきりしない。小説などでも色々な描かれ方をしているが、いずれにしても五徳から父信長への知らせが悲劇を生んだのは間違いない。実父によって夫と義母を死に至らしめるという五徳は、難しい役柄である。
さて、この五徳を演じているのが乃木坂46の久保史緒里である。「久保」という名字は名字ランキング86位というメジャーな名字で、全国に広く分布している。
同じ読みで「窪」という名字もある。こちらも全国ランキングは3000位以内に入る普通の名字だが、「久保」に比べると実数では40分の1とはるかに少ない。この2つの名字はどういう関係にあるのだろうか。
「くぼ」という名字は、地形由来のものである。周囲より低くなっている土地を「くぼ」といい、こうした場所に住んでいた人が「くぼ」さんである。低い土地というと現在ではあまりいいイメージはないが、稲作が経済の基本だった時代、水を引いて水田を作りやすい低地は一等地だった。
そして、こうした場所に住んだ人が「くぼ」を名乗ったのだが、漢字をあてる際には「できるだけいい漢字を使いたい」という考えがあった。そこで、実りのあるこの水田を「久しく保てるように」と「久保」という漢字をあてて名字とする人が多かった。
また「名字は漢字二文字がベスト」という考えが浸透していたことも「窪」よりも圧倒的に「久保」が多い理由の1つである。実際「くぼた」の場合は、「久保田」が「窪田」より多いもののその差は3倍ほどで、3文字にしてまで佳字を使わなかった人もかなりいる。
また、低地は重要な場所だったため各地で独特の方言も生まれている。北関東では「あくつ」といい、栃木県では「阿久津」、茨城県では「圷」をあてることが多い。西日本では「ふけ」といい、こちらも「泓」「浮気」など色々な漢字をあてている。なかでも「福家」や「富家」は子孫が富を享受するようにという願いを込めた名字である。
「久保」は現在では沖縄以外に広く分布している。なかでも鹿児島県、香川県、和歌山県に多く、久保史緒里の出身地である宮城県にはあまり多くない。