救済のクレディ・スイス、紙切れになった債券に泣いた投資家多数、あの人も…リスク説明なかった!?「投資は年率3%を目安に」

DJ Nobby DJ Nobby

箱根駅伝で2015年以降の4連覇などの実績で知られる青山学院大学駅伝部の原晋監督が、インターネット番組などでスイスの金融大手クレディ・スイスのAT1債への怒りをあらわにしました。リスク商品に損失は付き物ですが、クレディ・スイスの株式は一定の価値が維持されたのに対し、AT1債が債券であるにもかかわらず無価値となった事実は大きな衝撃でした。ハイリスク金融商品を見極める方法を考えました。

報道によると、原監督は少しずつ貯めたお金を投資していましたが、損失額はサラリーマンの年収の数年分といいます。出演したテレビ番組で「(自分の資産が)紙切れになりました」「日本の投資会社は説明責任を果たしているのか」と疑問を投げかけました。証券会社の営業マンに勧められるがまま、ローリスク商品だと思い購入したが、その際、リスクに関する説明はなかったといいます。

クレディ・スイスのAT1債の悲劇

アメリカのシリコンバレーバンクの経営破綻に端を発した市場の混乱を受け、2023年3月19日にクレディ・スイスが長年のライバルであるUBSに救済される形で買収されました。この出来事は金融業界のみならず全世界でトップニュースとして報じられ、「2008年の金融危機のようなことが起こるのではないか?」と取り沙汰されたことは記憶に新しいと思います。この救済策の一環として、スイスの規制当局は「AT1債」と呼ばれる債券を無価値化することを決めました。

債券とは借用証書のようなもので、企業が投資家から資金を借り入れる際に発行する有価証券です。発行した企業が経営破綻しない限りは元本と利息が取り決めた条件通りに投資家に対して支払われます。そして、一般的には経営破綻した際にも、残っている資産から優先的に弁済を受ける権利があるとされています。

そのなかでもAT1債は、銀行の資本を補強するために発行される特別な債券で、発行した銀行の経営状況が悪くなった場合、利払いが停止されたり、株式に転換される可能性があるとされています。すなわち、経営破綻した際には一般的な債券ほどの優先権はない、債券の中ではリスクが高い金融商品なのです。

一方でAT1債であったとしても、そもそも弁済を受ける優先順位が低い株式よりは優位とされていて、比較的利回りが高く、かつリスクも抑えられた商品として多くの投資家が好んで購入していました。

ところが、スイスの金融当局はAT1債を無価値化する一方で、株式については一定の価格でUBSが買い取ることとしたのです。投資家の間で常識とされていた優先順位が逆転する決定がなされたことで、市場に衝撃を与えました。

2022年6月に発行されたクレディ・スイスのAT1債は年率9.75%の利回りを確約するなど、非常に高い利回りが魅力でした。これを受けて日本を含むアジアの富裕層が多く保有していたとされていて、日本でも一部の富裕層が巨額の損失を出したことが報じられました。

ただ、販売時に「全額を失うリスク」についての説明がなかったケースもあるようで、スイスの金融当局に対して法的措置を検討する動きも出てきています。

なぜ投資家はリスクの高い商品を好むのか

日本では事実上のゼロ金利が長年続いている一方、NISAやiDeCoなどの投資家を優遇する政策が相次いで導入されたことで、より高い利回りを求める投資家が増えています。その結果、投資家の間では比較的リスクの高い金融商品の購入がトレンドになっているようです。

しかし、リスクを十分に理解せずに投資を行うことで、大きな損失を被る可能性もあります。投資家がリスクの高い商品に興味を持つ理由はその高い利回りにあります。クレディ・スイスのAT1債も10%に迫る水準のリターンが確約されていました。スイスの大手金融機関という安心感と相まって、投資家は「経営破綻するリスクはないに等しい」と考えて購入していたのでしょう。

ただ、リスクとリターンは表裏一体であり、リターンが高いということは必ずその分リスクも高いのだということを理解しなければなりません。有名な企業の名前がついている債券であったり、リスクに対してリターンが高いかのような説明がされたりと、本来のリスクを見えにくくする要素が多い商品がたくさん出回っており、投資家が知らないうちにハイリスク商品に手を出す原因となることもあります。

金融商品の仕組みをすべて理解することは一般の人にとってハードルが高いですが、リスクを少しでも下げるためには、信用格付けなどをチェックし、バランスの取れた資産配分を行うことが重要です。

年率3%を利回りの目安に

金融商品のリスクを見極める基準の一つが利回りの高さであることはここまででご理解いただけたと思います。では、何%くらいを目安に投資商品を選べばよいのでしょうか。

様々な考え方がありますが、私は「年率3%」を一つの目安とすべきだと考えています。その根拠は近年の世界経済の平均成長率です。これは、様々な国や企業に分散して投資をした場合に期待できる収益がこの水準であるということを示しています。

この水準を大きく超える利回りを謳う金融商品をすすめられた場合は、中身はなんなのか、誰がどのように運用しているのかを確かめ、説明が理解できない場合は投資を見送る勇気を持つことが重要です。

ハイリスクな金融商品を見極めるためには、商品の特性やリスクを理解し、自分の投資目的に合っているかを確かめることが重要です。投資資産全体で年利3%程度を目指す事で、バランスの取れた成長が期待できます。

また、ハイリスクな金融商品への投資を選択する場合は、投資の基本原則を念頭に置くことも大切です。投資の基本原則とは、

1) 資産配分を適切に行うこと
2) 分散投資を心掛けること
3) 長期的な視点を持つこと
4) 定期的にポートフォリオを見直すこと

などが挙げられます。印象や先入観に左右されず、金融商品自体のリスクや中身をしっかりと見極める事でより安全な投資を行っていただければと思います。

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