新生活がはじまり、何か新しく習い事を始めたいという人も多い季節。
「墨汁を使用せず、水だけで書ける「水習字用紙」を発明。汚れない、片付け簡単、乾いても消えない特長を持ち、書道を始める負担を減らします」
ツイッターに投稿された青い文字がなんとも清々しく美しい習字風景と、その作品群。この『水習字用紙』を紹介するツイートに、6万件以上ものいいねが集まり、さまざまなコメントで大いに盛り上がりを見せました。
「おおおぉー!これなら書きたい!」「文字が青くて綺麗」「新しい、アートだなあ」など、そのビジュアルの美しさを絶賛する声から、書道のレベルを超えて好奇心をくすぐられる人が続出。そんな中、多かったのは書道を学ぶ子どもの親御さんからの意見。
昔も今も変わらない「書道あるある」の救世主に?!
「買ったばかりの服を着せた日に限って行われる習字。これはぜひ導入して頂きたいです!!」
「案外高いなぁと思いながら子どもの習字セットを注文したところです。汚れない上にこんな綺麗な青い文字が書けるなんて素敵」
「机・床・水道が真っ黒になる学校側の負担もなくなるし、服が汚れたり当日の朝になって『筆洗ってないじゃん!』となる保護者のイライラもなくなるし、友達の服を汚したなんてトラブルもなくなるし、、、良いことづくしじゃないか??」
今も昔も変わらぬ“書道あるある”を憂うコメントがずらりと並ぶリプライ欄。
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「これすごい。毛筆って、準備から片付けまでに教師も子ども双方に労力のかかるものなんだよ。筆を洗わなくても済むから、保護者の負担も減るよな、広まるといいな」
このような、行間にリアルな現場の苦労がにじむ現役教師からのコメントも。
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「書道は書く道筋を礼を持って心浄め礼で終わる。硯で墨を作り心浄め書く。白紙と黒墨で陰陽を示し書く。想いを込めて書く。だから詩や書になり相手に伝える手段になる。書道の重みは感じてゆっくり学ぶべき」
一方で、書道の精神性を重んじる正統派の声も集まりました。
賛否両論を巻き起こした「水習字用紙」について、発売元の合同会社イージーモードの浜飯政美さんに、開発のきっかけなどを聞いてみました。
「気軽に書道に触れるきっかけをつくりたい」
ーーそもそも「水習字用紙」をつくろう!というアイデアはどこから?
「私自身、書道日本一の経験を活かし、字を教え始めて20年以上経過しましたが、年々お習字離れを実感していて。習い事ランキングでも、どんどん順位が下がってきているんです。わけを聞くと、子どもたちからは『道具が重い』、親御さんたちからは『汚れるのが嫌』という意見。小学校でも『書写』の授業で毛筆が復活しましたが、小学校の先生に話を伺うと墨汁を使った場合、後片付けに時間がかかりすぎて、次の授業に影響が出るとのことでした。そんな中、『乾いて消える紙』を使って授業をしている先生もいると聞きました。水だけで書くことができ作品が残せる紙があれば、さらにお習字が気軽にできるのではと考え、約3年かけて開発しました」
ーーバリバリ現役の書家としても、水習字用紙の開発では、譲れないこだわりや、ご苦労もあったのでは?
「私は『作品が残らないと上達しない』と考えています。上達の過程を振り返ることはとても重要ですし、上手に書けた場合に先生や親御さんから褒められることは自信につながるからです。(商品開発においては)なんの知識もないため、イメージを形にすべく、大型文具店にあるインク・絵の具・塗料の類と、棚にある全ての種類の紙を購入することから始めました。さらにAmazonで何か役に立ちそうな薬品類もたくさん買い込んで、夜な夜なひとり黙々とテストを重ねたんです」
ーーまさに手探りからのスタートだったんですね!
「また製造工程が特殊なので、請け負ってくれる工場探しも難航しました。墨汁で書いた時と同じ書き味に仕上げるため、工場の職人さんと試行錯誤を繰り返して。クオリティを求めた結果、国内生産となり、原価がかかりすぎてしまっているのが現時点で苦労している部分です」
ーー1枚40円のハードルですね。
「1枚の値段が安くはないので、ガンガン練習する紙ではありません。あくまでも既存の『水で書いて乾いて消える紙』でたくさん練習した後、本番として集中力を高めて、最後の1枚でこの紙に書いてもらうことを想定しています」
ーーなるほど、作品を残すために墨汁を使う難関を「水習字用紙」で解消できるわけですね!
「青色については賛否両論あると覚悟していたのですが、意外と『色がきれい』『先進的』などの肯定的な意見を多くいただき、正直驚きました。今後は黒色の実現に向けて、さらに開発を進めていきたいと思います」
ーーたしかにツイッターでは賛否両論、さまざまなコメントが見受けられました。長く書道を教えてらっしゃる浜飯さんだからこそ、墨汁の良さも熟知されてらっしゃるかと。
「『こんなのは書道ではない』というご意見もいただきましたが、私も硯で墨を擦り書く書道は素晴らしい文化だと思っております。水習字用紙はあくまで入口。お習字・書道離れを食い止めるひとつの手段として捉えてもらいたいです。水習字用紙を使うことで筆で字を書くことの楽しさに気づき、本格的に墨で書く書道をやってみたいと思う方もいるでしょう。結果的に書道人口が増えてくれれば嬉しいです」
ーー水で書けるなら、書道への間口がぐっと広がりそうです。実際に販売してからの反響はいかがですか?
「面白いと思ってくださった個人の方や、小学校・高齢者施設などから大口の注文もいただいて反響の大きさにも驚いています。書いた様子をSNSに投稿されている方もいて、うれしい限りです。なかでも小学校の先生からの問い合わせがとても多くて、やはり書写の授業でお悩みになっていたのではないかと思います。購入者の方々にもご感想・ご意見をいただいているのですが『書き味が墨汁と変わらないのがいい』『筆の通り道が分かりやすい』という、書道経験者と思われる方からのお声はありがたいです」
ーー「海外に売れる!羽田のお土産物屋は、今すぐにコレを陳列すべき」というコメントもありました。書道に留まらず、新たな販路も広がりそうですね。
「たしかに、想定以上に海外からの問い合わせが多く、気軽に書道を楽しみたいというニーズは日本にとどまっていないことに驚きました。『書道体験イベントで使いたい』『絵を描いてみたい』というお声もいただいており、今後様々な場面で使っていただけるのではないかと考えております」
価格設定に対する浜飯さんの心配をよそに、
「筆以外の道具だけで三千円以上かかって、更に毎週習字する度に筆をしこたま洗う時間と水の量を考えたら1枚40円なんてめちゃくちゃ安いです!」
「練習用(乾いたら消えるやつ)、本番用(乾いても消えない奴)って分けたらお財布にも優しそうっすね」
「まずは書く楽しさを知り、もっと深く楽しみたいと思った人が墨を擦るなどして極めて行けば良い。物事を始めるのにすべて完璧である必要はない」
概ね好意的なコメントがたくさん集まっています。
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浜飯政美さんは、書家の(故)田名部房香氏に師事したのち、書道教室「花香墨」(東京都港区北青山)を運営。しっかり書いているところを見たうえで、的確に指導したいという思いから、寺子屋方式ではなく、少人数制にてお稽古を行っています。メインは出張教室で、個人レッスンのほか高齢者施設、学童、企業内書道部、書道体験イベント、書道パフォーマンスなどさまざまな方法で書道文化を広げる活動をされています。
■合同会社イージーモード
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