空港にポツンと「小さな部屋」が増加中 目的を知った人から「こういう部屋があると安心する!」「次の旅行で行こうかな」と喜びの声

谷町 邦子 谷町 邦子

今少しずつ日本の空港で増えている小屋のような部屋…「カームダウン・クールダウン室」です。「北海道の玄関口」とも言われる新千歳空港ターミナルビルが公式ツイッターアカウントで運用を発表したところ大きな反響がありました。導入の経緯などについてたずねました。

「カームダウン・クールダウン室」とは、「知的・精神・発達障害、自閉症、認知症、感覚過敏等の症状」を持つ利用客が、「空港という非日常的な空間から生じる不安や緊張を少しでも緩和」できるように設置された部屋です。

同施設では、「外部からの音や光、視線などが極力遮られた空間」を目指し、やや狭めの窓のない、柔らかそうなソファがあり、ロールカーテンで人目を遮断できるように。国内・国際線のターミナルあわせて4カ所に設置され、いずれも無料・予約なしで利用できます。

「とても素敵な取り組みです。感覚過敏は、目には見えないので理解が得づらいので助かります」
「『じゃあ次の旅行で行こうかな』って思いました。とってもありがたく、嬉しく思います」
「新千歳空港を利用するモチベーションになります」
「素晴らしい対応だな。子ども達と関わってきた中でも人がいない空間に連れて行かないとダメな時が多々あるんすよね。落ち着く空間をつくらないと」
「聴覚過敏でたまに心がざわついたり、不安になったりするのでこういう部屋があると安心する!他の施設でも同じような取り組みがあるといいなー」

今回の設置に対して、当事者やその家族、支援者を中心に喜びの声が多数寄せられていました。

また、「コレ、今回の旅で初めて見て『おおー』と思いました。制限エリア内の搭乗待合室の端(人がほとんど来ない)にあったんです。是非いろんな人が利用できたらいいよね」「予約不要なのが当事者の特性をよくわかっていて良い(空いている確率がどれくらいかというのはあるけれど)」など、設置場所や運用方法についてのコメントもありました。

ほかには、成田空港(2018年)、羽田空港(2020年)、中部国際空港 セントレア(2022年)などにも設置されている「カームダウン・クールダウン室」。2019年に完成した国立競技場(東京都新宿区)にもあり、2020年に案内用図記号(JIS Z8210)として「カームダウン・クールダウン」のピクトグラムが追加されたものの、まだまだ知る人ぞ知る存在です。

「カームダウン・クールダウン室」の設置のきっかけや反響、設置場所や内装で工夫した点について、道内7つの空港を運営する北海道エアポートの新千歳空港事務所 施設部に話を聞きました。

「いざという時」の安心感が、一歩踏み出すきっかけになれば

――どのようなきっかけで「カームダウン・クールダウン室」を設置されたのですか。

「2022年、有識者の方より、知的・精神・発達障害、自閉症、認知症、感覚過敏等の症状をお持ちのお客さまにとっては、『カームダウン・クールダウン室』が整備されていないこと自体が、施設的な障壁(バリアー)を生み出しているというお話をうかがい、特に公共的な施設における設置の必要性を感じたところです」

――どういった想いで設置されましたか。

「これらの症状をお持ちのお客様が、空港という非日常的な空間から生じる不安や緊張を少しでも緩和させ、ご家族と一緒に航空機をご利用いただけるようになれば良いと考えています」

――ほかの空港での設置について、どのように受けとめましたか。

「施設機能として、今後は検討が必要という位置づけで考えていました。現在は、まだ設置したばかりではありますが、多方面から周知を行うことで、ご利用のお客さまにそうした施設的な障壁(バリアー)が少しでも解消されたと感じていただけるようになれば良いと考えています」

――設置された場所は、どのような基準で選ばれましたか。

「設置場所については、公共交通機関等からの移動の連続性と他者からの視線を極力感じずに行ける場所を選定しました」

――部屋の内部で大切にしていることは。

「内装については、壁に吸音パネルを貼り、外部からの音は抑えながらも搭乗アナウンスは聞こえるよう配慮し、また、吸音パネルはアイキャッチャーとしての役割も兼ねるよう優しいデザインのものを採用しました。

使用中は室外からの視線を遮りながらも室外からは使用中であることがわかるよう、入口のロールカーテンを閉じた際も床上40cmが開くように設定しています。車いすでの利用時には室内で旋回しやすい位置にソファを配置しています」

――ツイッターでの反響についてはどう思われましたか。

「『こんな施設があると本当にありがたい』といった肯定的なコメントが非常に多く、そういった反響が大きいということは、ご家族の方を含めそれだけ実際に必要としている方がいるということだと考えています。特に公共性の高い施設を中心に、見た目にはわかりにくい障害をお持ちのお客さまへの対応が必要不可欠と言えそうです」

――今後は、カームダウン・クールダウン室はどのような存在になっていくと思われますか?

「『カームダウン・クールダウン室』のような施設は、現在はまだ認知度は低いかもしれませんが、近い将来その重要性は増してくると考えています。実際には使用しなくても、そこに『カームダウン・クールダウン室』があれば、いざという時にも安心できるということで、家から一歩外へ踏み出すきっかけになれば良いと考えています。

実は、一括りに『健常者』とされる方の中にも、周囲の音が聞こえすぎたり、人混みにいると過度に疲れたりといった『感覚過敏』の症状のある方は意外に多いと言われています。そういう意味では、今後他の公共施設等でも整備が進み、ごく一般的な施設になってくれば良いと考えています」

◇ ◇

新千歳空港ターミナルでは、国内線ターミナルビルには、空港ロビーのセンタービル(1階)、 搭乗待合室内には19ゲート付近(2階)、101ゲート付近(1階)、国際線ターミナルビルには、 更衣室内(3階・既存車いす用更衣室と兼用)の4カ所に設置されています。

これからのゴールデンウィークや夏休みなどの大型連休で、多くの人の利用が予想される空港。欧米の空港では類似した趣旨で、光・色・音を通じてリラックスさせ、子どもたちが遊んだりして過ごすこともできるような「センサリールーム(sensory room)」が増えています。こういったスペースを、実際に利用した人からの声が広がり、他の公共施設などへの設置が増え、より使いやすい形や運用が模索されていけばいいですね。

■新千歳空港ターミナルビル https://www.new-chitose-airport.jp/ja/
■北海道エアポート株式会社 新千歳空港事業所「カームダウン・クールダウン室の設置について」
https://www.new-chitose-airport.jp/ja/topics_info/calmdownroom.pdf

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