維新は「今の自民党以上に、自民党的」…躍進の背景に、強固な組織力 統一地方選・前半戦受けて豊田真由子が分析

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

統一地方選の前半戦が終わりました。今回は、日本維新の会の動きから今後の日本政治を考えてみたいと思います。

維新の躍進

維新は、大阪府知事と市長に加え、奈良県知事選で勝ち、道府議選(67→124)、政令市議選(73→136)で、1.85倍ほど、議席を伸ばしました。

維新は、「今の与党には投票したくないし、他の攻撃的な野党もイヤ」という人たちの心理に、うまくフィットしています。

大阪では、2012年から、与党として首長、府政・市政を担って来ていて、実績を作っています。新型コロナ対応などで見せた、吉村知事の手腕とイメージの良さ。党のメッセージが明確で、メディア戦略も巧み。国会では、「とにかくなんでも反対!」の攻撃的な典型的野党とは趣を異にし、是々非々で臨む。

こうしたことから、保守層、穏健なアンチ与党、そして、無党派層のどれをもうまく取り込んだ感があります。

奈良県知事選では、現職と新人で保守分裂が起こり、保守系候補二人の得票数を合わせると、当選した山下氏を上回っていたことから、維新は「漁夫の利」を得たという見方もありますが、県議選の結果を見ると、「自民23→17、維新3→14、公明3→3、立民4→2、共産4→1、無所属4→6」で、自民、立民、共産の票を、維新が取っていった形で、着実に地保を固めてきています。

維新は今回、大阪府議会(51→55)で70%、市議会(39→46)で57%の議席を得ました。

大阪府知事選では、自民府連が「自主支援」とした候補者を巡って、党内がまとまらなかったという要因はありますが、各社の出口調査で、自民支持層の約7割が、府知事選で吉村氏に、同約4割が、市長選で横山氏に投票したという状況を、自民党は真剣に受けとめる必要があると思います。先の衆院選の結果についても、大阪の候補者の感じる危機感・悲壮感が、党本部には理解されていない感があったと思います。

かつては、維新幹部が自民幹部と頻繁に会合を重ね、「与党に合流するのでは」と言われていた時期もありましたが、機を見るに敏、今回は「自民党と対峙する」(吉村大阪府知事)、「公明党との関係を一度リセットする」(馬場代表)とのことで、これは実は、各方面にじわじわと影響が出てくる、大きな変化だと思います。

維新の組織戦は…ある意味、自民党より強固

『維新は自民党のような組織がないのに、勝った』という言い方をされることがあります。私は、これは、正しくないと思います。

維新は、一度足掛かりを築いたら、強いです。

それは、なぜか。

実際に国政選挙を経験した者として、維新と近年の自民の「選挙のやり方」の決定的差は、「地方議員が、どれだけ党の方針に従順か、懸命に首長や国政選挙の党の候補者を応援するか。」があると思います。

「組織戦」の母体である自民党地方支部の中核となる市長、県議、市議は、「地元の有力者で、何十年も議員をやってきている」人たちが多く、(意外に思われるかもしれませんが)地元の国政選挙や首長選挙に関して、「従順に、党本部や都道府県連の言うことを聞く」なんてことはありません。

「地元でずっとやってきたのは自分たちだ」という自負や利権があり、「地元のことは、自分たちが決める」という思いが強くあります。自身の地方選挙には、党本部や県連はほとんど影響力が無いので、特段こわくもありません。

(もちろん、自民党の地方議員にも、党に対する忠誠心篤く、必死で候補者を応援する方もいますし、地域によっては、ベテランの国会議員が、強い権力を保持し、実際に地方議員を束ねている、という選挙区もありますが、往時に比べれば、ぐっと少なくなっています。)

地方議員の中には、自らに首長や国政への意欲がある人も多く、選挙のたびに、各地で保守分裂を招いています。紆余曲折を経て、候補者が一本化された場合でも、党本部が選んだ新人候補なんて、よほど利害が合致した場合以外は、真剣に応援しない場合も多いです。

各地域支部には、一般の自民党員が大勢いて、普通に優しい方が多いのですが、党員は支部長である地方議員の意向に背くことはできません。支部長が「うちの支部はこの候補を応援する」と決定してはじめて、地域支部もちゃんと動くことができる、という構図になっています。

一方、維新の地方議員は、議員としての年数がまだ少なく、地元の名家や有力企業など「地元の有力者」ではないのが普通です。「自分は、党の力・人気で当選した」ということをよく分かっており、党に対する忠誠心が篤く、上意下達で統制がきき、党の選んだ首長選や国政の候補者を懸命に応援します。(軋轢が全くないわけではないとも聞きますが、総じて統制が効いていることが、党の力を増幅させています。)

私は関西の番組出演で、毎週大阪にうかがっていますが、先の衆院選でも、全く別の地域で維新の候補者として活動していた、地元に縁の無い候補者の方が、地盤を替えて大阪に来てすぐに、維新の地方議員が、そのビラや名刺を配り、地元を一緒に回って、必死で頭を下げていることを知り、「うわぁ、自民党では基本、絶対無いことだなあ…。でも、本来、政党の地方組織の力って、こういうことなんだろうなあ。」と、びっくりしました。

「党の決めた候補者」は、党の方針に忠実に従って、懸命に応援する。そこには、「今の自民党以上に自民党的な」強固な組織力があります。

今後の展開は

ただし、今回の維新の勢いが、このまま全国に広がっていくか、というと、そう簡単ではないように思います。

今回維新は、道府県議選、政令市議選で、これまで近畿地方だけだったものを、東北、北陸、山陰地方を除く全国に広げ、足がかりを得たことは間違いありませんが、近畿以外での議席数は少なく、今のところ、それぞれの地方議会での勢力を変えるような力にはなっていません。

道府県議選で見ると、今回維新が獲得した124(前回67)議席の内訳は、大阪55(同51)、兵庫21(9)、奈良14(4)、京都9(2)、和歌山3(1)で、8割(102)が近畿地方です。新たに議席を獲得したのは、神奈川6、福岡・滋賀が3、北海道・栃木・群馬、埼玉・千葉・徳島・香川・愛媛・福岡・熊本・大分が1です。

政令市の市議選で維新が獲得した136(前回73)議席の内訳を見ると、大阪46(39)、堺18(18)、神戸15(10)、京都10(4)、福岡7(2)、新たに議席を獲得したのが、横浜8、川崎7、札幌5、さいたま・千葉・相模原が4、広島3、新潟2、名古屋・岡山・熊本が1となっています。

今回の躍進で起きた波を、それぞれの地域で着実に浸透させ、拡大していけるか、が試されます。

また、昨年の参院選後の分析(「カリスマからの脱却で注目「日本維新の会」初の代表選」(2022年8月19日))でも述べましたが、かつての橋下・松井元代表といったカリスマ指導者や、吉村知事の人気に依拠するところが大きく、それが、政党としての弱みでもあります。

本来は、それぞれの議員・候補者の資質や努力がどうか、ということも強く問われるべきで、「この地域であれば、維新から出れば誰でも当選してしまう」ことは、逆に党としての成長を阻害する要因になり得ます。(維新に限らず、どの政党でも同じことですが。)

そして、今回のような勢いを、国政選挙でどれだけ拡大できるか、も未知数です。

これまでの国政選挙における維新の比例区の得票数と得票率の推移を見ると、2012年衆院選1226万(20.4%)、2013年参院選636万(11.9%)、2014年衆院選838万(15.7%)、2016年参院選515万(9.2%)、2017年衆院選339万(6.1%)、2019年参院選491万(9.8%)、2021年衆院選805万(14.0%)、2022年参院選785万(14.8%)となっています。

国政選挙には、国政選挙独特の力学があります。地域による特性も、それぞれ大きく違っています。定数が数十人の地方議会で、一議席を獲るのと、定数が一しかない衆院小選挙区や参院地方区で、その議席を獲るのとでは、ハードルも大きく違います。

そうした中で、維新がどう動き、党勢を国政レベルで拡大していけるのか、注目すべきところと思います。

いずれにしても、与党や既存野党が、維新について「大阪だけの話」「新党ブームでできた政党はそのうち消える」「与野党のいいとこ取りをしてずるい」といった見方を続けているようでは、いろいろを大きく見誤ることになると思います。

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新たな政党も含め、多くの政党が、いろいろな動きをしていますが、一方で、政治への信頼や関心が薄れていると言われ、冷めた視線が注がれてもいます。

世の中では、「政治家は自分たちのことしか考えていない」と思われていると思いますが、与野党問わず、志高く、日本国と日本国民のことを真剣に考えて、活動している議員も、ちゃんといます(ほんとです)。

経済も停滞し、ある種の危機下にあると思われる今の日本で、切磋琢磨する政党(と政治に携わる者)と国民とが、相互理解をちゃんとして、日本と日本国民にとって、よりよき未来に向かっていけるように、ともに歩んでいけるようになるとよいと願うのは、希望的観測過ぎるでしょうか。

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