駅で倒れている人を「人命救助しました」…的確な行動に称賛の嵐 日頃のイメトレが現場で生かされた!

竹中  友一(RinToris) 竹中 友一(RinToris)

街なかで倒れている人を見かけたら、あなたはどうしますか?

本来ならば、救急車が来るまでの間、応急処置や救命措置を取るべき。しかし、本当にそんな場面に出くわしてしまったら、どうして良いのか分からず立ちつくしてしまったり、見て見ぬふりをして通り過ぎてしまう――という人も多いのではないでしょうか。

あこうふせんぜんこと藤岡俊平さん(@yamatonosaka)は、実際にそのような場面に遭遇、人命救助にあたりました。その勇気ある行動に称賛の声が続出しています。

駅で倒れている老人が…!

その日、外出をしていた藤岡さん。用事を済ませて帰りの電車に揺られ、ターミナル駅で降りようとした時、ホームに老人男性がうつ伏せで倒れているのが見えました。

その人のすぐ近くにいた友人と思しき男性が「大丈夫か!」と声をかけていますが、応答はなく、すでに意識がないことが分かりました。その友人もパニックになっている様子。

藤岡さんは辺りを見渡しました。周囲には20~30人ほどの人がいましたが、ただ歩き去っていったり、離れたところからただ見ているだけだったりして、男性をいち早く助けようとしている人は誰もいません。医療関係者もいないようです。

藤岡さんはその人のもとに駆け寄りました。背負っていたリュックを脇に置き、その人の手首をとって、脈をとります。脈はないように思われました。次に呼吸です。マスクをしていたため分かりづらくはありましたが、首元に動きがなかったことから呼吸もなしと判断。マスクを外すという冷静な判断はできなかったといいます。

脈無し・呼吸無し。事は一刻を争います。藤岡さんは、近くにいた女性にAEDを持ってきてもらうように頼みました。次に救急隊員の手配。駅員さんが事務室に戻り、119番通報をしてくれました。

その後は胸骨圧迫(心臓マッサージ)に入ります。胸骨と思われるところに手を当て、肘を伸ばして断続的に圧迫。スペース的にも狭く、男性に馬乗り状態になって救助をつづけました。

救命活動の具体的な方法は、学校などでも習います。しかし、この時の藤岡さんには、学生当時学んだ内容を詳細に振り返る余裕はありませんでした。でも、だからといって、ここで止めるわけにはいきません。

「助かる可能性がある命を放置するわけにはいかない」

それだけが自分自身を突き動かす原動力でした。

兆しが見えたのは、胸骨圧迫をはじめて2分ほど経った頃。少し老人男性の身体が動いた気がしました。脈を確認しましたが、脈が戻っているかどうかの確信はもてず、またAEDも届いていなかったため、胸骨圧迫を再開することに。しかし、その手ごたえは明らかにこれまでと異なっていました。

「柔らかかった圧迫の感覚が硬く変わりました。それまでは人の模型にしているような感覚で胸骨圧迫をしていたのですが、それが明らかに人体を圧迫している感覚に変わりました」(藤岡さん)

藤岡さんは落ち着いて、もう一度、脈を調べてみます。拍動を確認。呼吸の方もむせるように再開したといいます。

その頃に、ようやくAEDが到着。やがて、救急隊員も到着し、バトンタッチ。

藤岡さんの勇気ある行動のおかげで、かけがえのない一つの命が救われました。

特別なことはしていない

人命救助の体験について紹介した、臨場感あふれるツイート。リプ欄にもたくさんの反響がありました。

「素晴らしい知識と行動力、敬服致します」
「なかなか即座にできる事では無いですね」
「直ぐに助けに行けるのまじでかっこいい...」
「さまざまな恐怖や戸惑いもあったと思いますが、勇敢な行動に感動しました」

多くの方が、藤岡さんに惜しみない称賛を送っています。また、「市の救命講習を受けようと、予約してきました」など、藤岡さんの行動に感銘を受け、自身も救命活動について勉強し直したいと思われた方も。

たくさんの人を感動させた藤岡さんの尊い行動。しかし、藤岡さんは「特別なことはしていない」と語ります。

「(学校の救命実習などで)教わったことを忠実にやったまでです。おそらく大半の人が知っている、もしくは見たことや聞いたことのある知識だと思います」(藤岡さん)

とはいえ、実際にその場面に遭遇すると、誰もがなかなかできることではないと、容易に想像ができます。

実は、藤岡さんの勇気ある行動の裏には、本人に関するある事情がありました。藤岡さんは職場での人間関係がもとで精神を病み、現在治療中。「死」について思いを巡らせてしまうこともしばしばだといいます。

「普段から生き死にについてよく考えていたので、あの場面で物怖じすることなく行動に移せたのだなと思います」(藤岡さん)

今回、あのような場面に出くわしたのも、かかりつけの病院からの帰りの出来事だったとのこと。

また、今回のツイートのリプ欄には、同様にメンタルの不安や悩みを抱えている人たちから「元気が出た!」といったコメントも多数寄せられました。そのような声に、藤岡さん自身もとても励まされたそう。

人を助けることは、自分を助けることでもあったのですね。

起こり得る“もしもの時”に向けて――日頃からの心がけが大切

心肺蘇生など、救命活動の方法や手順、心肺蘇生のやり方も学生時代の保健の授業や、自動車学校の講習で習います。

しかし、いざ緊急事態に直面すると、パニックになってやり方を忘れてしまう方が多いのではないでしょうか。

そんななか、藤岡さんの行動は、脈や呼吸をチェックし、AEDや救急隊員を手配し、そのうえで心臓マッサージを行うという、非常に的確なものでした。心肺蘇生は時間との勝負です。気道を確保するのを忘れていた、人工呼吸をためらって結局できなかった、などの反省点も後から出てきたそうですが、それでも即座にこのような処置ができたことが、人命救助につながったことは間違いありません。

なぜそのような行動が取れたのでしょうか?藤岡さんは語ります。

「日頃から、『こういう時にはこうしよう』や『このことを聞かれたらこう返そう』といったイメトレをしていたりしたんです。その中に今回の心肺蘇生の方法も含まれていました。また、授業で教わった救命活動の知識を忘れないために、脳内で思い出したりすることも日頃からしていました」(藤岡さん)

例えば、街なかでAEDを見かけると、実際に使用している場面を想像する――そのように有事の際のイメージトレーニングを積み重ねていたという藤岡さん。そんな日頃からの意識が、実際の場面で大きく活かされたのですね。

緊急事態への対処は我々自身にも関わることです。誰もが突然事故に巻き込まれたり、地震などの自然災害に見舞われたりする可能性は大いにあります。目の前の人に危機が訪れる場面にも、自分や家族が困る状況にも直面するかもしれません。そのような事態に対して、日頃から備えの意識をもつことは大切です。

「人類が生まれてからたくさんの人が災難に遭っていて、先人たちが記録に残したり今後の人のために教訓を残してくれているので、そのような情報をただ聞き流すのではなく自発的に『これは覚えておこう!』と意識して、決して他人事とは思わないことが大切だと思います」(藤岡さん)

自分や家族の身を守ることは何より大切。予め、有事の際の集合場所等をハザードマップなど見ながら決めておくなどの対策も必要でしょう。同時に、困っている他人に手を差し伸べることも大切です。

「無理をする必要はないと思います。しかし、自分に余裕があるなら是非手助けしてあげましょう。そして今の時代いつ自分に余裕がなくなるか分かりません。そんな時誰かが助けてくれるかもしれません。優しい世界になることを願っています」(藤岡さん)

■藤岡俊平(あこうふせんぜん)さんのTwitterはこちら
 →https://twitter.com/yamatonosaka

日本蘇生協議会(JRC)がホームページで公開している「JRC蘇生ガイドライン2020」によると、第1章の一次救命処置の「呼吸の確認と心停止の判断」の項目で、「医療従事者が心停止を判断する際には、頸動脈の脈拍を確認するが、市民救助者の場合にがその必要はない」とあります。市民用のBLS(Basic Life Supportの略称で、心肺停止または呼吸停止に対する一次救命処置)のアルゴリズムでも、脈拍の確認は求められていません。

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