高知県黒潮町で開かれた津波の避難訓練が、SNS上で批判を浴びています。避難をためらう高齢者に児童が声をかけ、高台まで連れていくという内容をNHKがインターネット上の記事で紹介したところ、「高齢者を守る為に子供が犠牲になりそう」「子供をいち早く避難させるべき」といったコメントが殺到。NHKが記事を加筆・修正する事態となりました。町情報防災課は「編集の仕方や受け取り方もあって真意が伝わらず不本意」とします。
炎上受け記事修正
炎上の発端となったのは今月10日、NHK松山放送局が公開した記事「わたしたちが主役!地域防災を支える高知の子どもたち」。高知県内各地の子供たちの取り組みが並ぶ中、黒潮町の児童が高齢者を津波避難タワーまで誘導する内容が紹介されました。ツイッターでは「子どもが自分の命を捨ててまで高齢者を救うことを強要しているのではないか」と批判が相次ぎました。町の庁舎にも抗議のメールや電話がこれまでに20件以上入っているといいます。
NHKはこれを受け、「公開当初の記事で避難訓練の趣旨が不明確だったため、3月12日に加筆・修正しました」として内容を変更。当初、記事中で「避難をためらう高齢者に対し子供たちが手助けし、避難に向かわせようとする訓練」とあった箇所が「避難をためらう高齢者に対し、子どもたちが意識改革を促すことにひと役買う訓練」になるなど、呼びかけが主な目的であることを強調する文言に修正されました。訓練を監修した専門家の「避難をあきらめる高齢者の意識を変えることを一番の目的に行っています」というコメントも併記されています。
町の担当者も「不本意」
町情報防災課によると、2月中旬にNHKから「近々何らかの訓練をする予定はないか」と問い合わせがあったといいます。町主催のものは予定になかったため、日ごろから地域の子供たちが、高齢者を含む地域の大人たちに避難訓練に参加してもらうよう呼び掛けをしていることを紹介。専門家の監修のもと、今回の訓練が開催されることになりました。人手の関係で、訓練に町の担当者は立ち合わなかったといいます。
今回の取り組みは、訓練への参加に消極的だった高齢者に、子供たちから声掛けをすることで前向きに参加してもらうよう促すことが目的だったといいます。「タワーまでこれぐらいまでの時間で逃げられるんだ、とお年寄りに体感してもらうことが大切」「子供たちには自らの命を第一に守りなさい、ということは日ごろから伝えている」とします。「必ず高齢者を助けに向かうよう教育しているわけではない。編集の仕方や受け取り方などさまざまな要素が重なってしまい、不本意で残念」と話します。
町としての対応検討
炎上をきっかけに、町の防災教育を非難するツイートも。「黒潮町津波防災教育プログラム」で、小学校高学年の学習内容例として「お年寄りの避難の手助けの練習をする」という記述について、批判する声が上がりました。町担当者は「自分の安全を十分に確保した上で、困っている人がいたら助けるという趣旨」とします。プログラムでは、大きな津波が来たらてんでんばらばらに一人で逃げなさいという三陸地方の教え「津波てんでんこ」も掲載しています。
南海トラフ巨大地震の被害想定で、全国で最も高い最大34メートルの津波が想定されている黒潮町。今回の騒動を受け、町としての防災に対する考え方や取り組みなどを何らかの形で発信することも検討しているといいます。