会社員(25歳男性)のAさんは、部署移動をきっかけに社内での人間関係が悪化し孤立してしまいました。同僚からは仕事に必要な情報が共有されないなどの嫌がらせを受け、話しかけても無視される、聞こえるような陰口をいわれるなど、精神的に追い詰められたそうです。
この人間関係悪化によって仕事は失敗の連続となり、上司に状況を説明するも「話し合って解決できないお前が悪い」と一方的に責められてしまいます。これによって我慢の限界を超えたAさんは、退職を決意しました。
ところが、退職の意向を示すと上司は人手不足を理由にAさんを引き止め、無理に退職するならAさんに損害賠償を請求すると言っています。このように会社が退職を認めない状況になった場合、どうすれば良いのでしょうか。社会保険労務士の小島朋子さんに話を聞きました。
会社が労働者に損害賠償を請求することは認められていません
─退職を引き止める在職強要は違法になりますか?
労働者が就業規則に定められた退職手続きや引継ぎのルールを遵守することが望ましいですが、期間の定めのない雇用契約においては、少なくとも退職の2週間前に申し出を行えば、原則として退職が可能です。
それにもかかわらず、使用者が労働者の退職の意思に反して就労を強制する行為は、労働基準法第5条に定める「強制労働の禁止」に抵触するおそれがあります。
身体的または精神的に拘束し、本人の意思に反して労働を強いることは明確に禁止されており、違反した場合には、同法第117条により「1年以上10年以下の懲役」または「20万円以上300万円以下の罰金」に処せられる可能性があります。
─在職を強要された場合どうすればよいですか?
まずはひとりで抱え込まず、社会保険労務士や弁護士などの専門家、または労働基準監督署にご相談ください。
また、2016年(平成28年)の「広告代理店A社元従業員事件(福岡高裁平成28年10月14日判決)」では、広告代理店の従業員に対する在職強要で、会社側に損害賠償責任があると認められ、会社から従業員へ慰謝料5万円の支払いが命じられました。
─会社から退職を理由に損害賠償を請求されることはありますか?
退職そのものを理由に、会社が労働者に損害賠償を請求することは原則として認められていません。
ただし、期間の定めがある雇用契約において、やむを得ない事由なく契約期間中に一方的に退職した場合や、期間の定めがない場合でも退職の申し出から2週間以内に無断で退職し、業務に著しい支障を生じさせたと判断される場合には、労働者に損害賠償請求がなされる可能性があります。
退職に際しては、労使双方が相手の立場を尊重し冷静で建設的な対話を重ね、業務の引継ぎや適切な手続きを行うことが重要です。
◆小島朋子(こじま・ともこ)
社会保険労務士/社会保険労務士事務所ホライズン代表 千葉県を拠点に活動する社会保険労務士です。障害年金の代理請求を中心に、法人向けには労務に関する各種ご相談、給与計算業務や給与ソフトの導入・設定確認を承っております。会社と人との良好な関係を築くためのサポートをいたします。