1冊を売るために…変化しつつあるビッグイシュー販売員の工夫 話題のおもしろコラムを作成する路上販売員に話を聞いた

太田 真弓 太田 真弓

ホームレスの人が駅前等で販売を行う雑誌『BIG ISSUE(以下ビッグイシュー)』。2023年9月で創刊20周年を迎えるとあって、今やおなじみの光景に。だからこそ、販売員のたゆまぬ努力に注目が集まっています。

販売場所でのアピール、SNSでの告知といった工夫に加えて、販売員独自で手掛ける、手書きのお手紙やコラム、ニュースレターを作る人も。なかでも、ライフハックなどウィットに富んだ内容を紙一面にびっしり書かれたコラムに目が留まりました。その中身の充実度で、SNSでも話題になっています。

気になって辿ってみると、どうやら神奈川県川崎市の東急溝の口駅周辺で販売されているポン太さん(@PONTA_HANBAI)が作成されたもよう。

「ビッグイシュー溝の口販売所をいつもご利用頂きまして誠にありがとうございます。ポン太のお手紙VOL12です。前回は「KYT」を使った防災や防犯についてのお話をしました。今回は防災シリーズはお休みしてポン太の節約術をご紹介したいと思います。最もポン太が気に掛けているのが電気代です。とにかく…」

こういった具合に、購入の御礼に始まり、ポン太さん自身が気になる話題やトピックについてビッシリ書き連ねてあります。

ポン太さんとビッグイシュー東京事務所に、お話を聞きました。

僕が持っている知識が何かの役に立てば

――溝の口でビッグイシューの販売をスタートされてどのくらいに?

1年と6カ月くらいです。

――コラムの作成・配布はいつ頃から?

去年の1月にスタートしました。毎号作成していて、今28号目(3月15日号用)です。

――なぜコラムを書こうと?何かきっかけが?

ビッグイシューを買ってくれるお客様に対して、なにか僕が持っている知識とかがお役に立てばよいなと思って書き始めました。昨年1月に新年で新しいことを始めるのにちょうどいいと思って始めました。

――コラムに関して、お客さまから何か感想などは?

そうですね、「誤字がありますよー」と教えてくださった方がいました。お礼をお伝えして、推敲を丁寧にしなければと思いました。その他にも、内容に関してのアイデアをくださる方もいらっしゃいました。「ポン太さんとはどんな人か」について書いたらどうか、とか。他にお伝えしたいテーマがたくさんあるので、僕自身のことはだいぶ先になると思いますが、今後どこかでお伝えしようと思っています。

――現在は「ポン太の郷土シリーズ」とのこと。コラムのテーマはどのように決めていますか?

路上に立つことで、販売している季節をダイレクトに感じられるので、販売中にネタを考えています。今年は1月から郷土シリーズにしようと、元々考えていました。

故郷の栃木の文化について、例えば2月の初午の日に食べる「しもつかれ」という料理があります。僕の故郷では2月といえば「しもつかれ」。給食にも毎年必ずでてくる、そんな料理です。自分がしもつかれが好きということもあります。それについて書きました。由来とかは書くことに決めてから調べました。

――「しもつかれ」、気になります!コラムの執筆、コピーなど全てご自身で手がけられ、費用もかかるでしょうし、大変だと思うのですが続けていくご予定ですか?

もちろん続けていく予定です。一度始めた以上、販売をやめるまでは続けたいですね。お手紙を結構楽しみにしてくれるお客様もいらっしゃるので、その方々のためにも書き続けようと思っています。

無駄足にならないよう、SNSをまめに更新

――SNSをまめに更新されておられますね。販売情報をタイムリーに得ることができるのは、常連さんにとっても、「買ってみようかな」と考えてらっしゃる方々にとっても、ありがたいと思います。

お客様がいらしたときに自分がいない=無駄足させない、という意図で販売情報をまめに更新しています。当初は溝の口でビッグイシューを販売していることを知ってもらうために始めました。そうするうちにフォロワー(お客様)が増えました。それならばもっとうまく使おうと、商品のラインアップとか販売時間、お買い上げいただいたお礼などを発信しはじめました。

――今後、ビッグイシューを販売しながら叶えたいことは?

お客様方の応援のお陰でネットカフェ生活からは抜け出せましたし、今後は安定したところに就職をしたいです。

全国12の都道府県で約110人が販売に立つ

2023年3月現在、東京・名古屋・大阪をはじめとする全国12の都道府県で約110人の販売者が立つほか、ネット販売や委託販売も実施。路上では、「ビッグイシュー販売者登録」を行った元路上生活者の方やネットカフェ生活等、定まった住居を持たないホームレス状態の方が手売りしており、販売の行動規範を守りながら、割り当て場所に立っています。

定価450円の雑誌を路上で売り、230円が彼らの収入になる仕組み。最初の10冊をビッグイシューが無料で提供し、その売り上げ(4500円)を元手に、以降は1冊220円で仕入れながら販売を継続していくそう。

中には、収入が安定してきたことで住まいを得た後、アルバイトや定職に就ける方も。ポン太さんのように携帯電話を所持し、自ら情報発信しながら積極的に販売活動をされている方もいらっしゃるようです。

ビッグイシュー東京事務所(東京都新宿区)所長の佐野未来さんにも聞いてみました。

携帯電話が販売者の「命綱」となっています

――お手紙やお礼を添えての販売に何かルールなどは?

特別なルールなどはありません。販売者登録の際に、販売者として行動している時間は「ビッグイシュー行動規範」を守っていただくよう、約束していただいています。

――SNS利用に欠かせないスマホをお持ちでない販売員の方も?

はい。東京事務所で登録をされている方に関して言うと、コロナ以前は携帯を持っていたのは2割に満たないくらいだったと思います。けれども、コロナ禍で対面の窓口の多くが閉ざされたり、電話やインターネットでの事前予約が必要となったため、携帯電話がまさに「命綱」となりました。

ビッグイシュー日本の活動から生まれた「認定NPO法人ビッグイシュー基金」(※)では、販売者が携帯電話を持つことができるよう、他団体・組織とも連携をしてサポートを続けてきました。その結果、現在では、都内の販売者の8割以上が携帯電話を持つことができています。住まいを失って新たに相談に来られる方は携帯電話が使えなくなっていることが多いのですが、無料で電話を貸し出している他の団体のサービスを利用するなどしてできる限り利用ができるようサポートしています。

【認定NPO法人ビッグイシュー基金】(※)
2007年設立。ホームレスの人々の生活サポートを軸に貧困問題解決を目指す非営利団体。『路上脱出ガイド』の配布、健康・住居等の相談業務をメインに、スポーツ・文化活動の応援から、住宅問題やギャンブル依存症に関する政策提案、寄付やボランティア参加者の募集など、多方面にわたり活動中。

◇      ◇

思わぬ手書きコラムに「おお!」となる購入者も多くいらっしゃるのではないでしょうか。読むことが楽しみになりますし、「またポン太さんから買いたい!」という気持ちにもなります。ポン太さんの細やかな配慮から、1冊1冊を丁寧に真剣に販売する姿勢、購入者の方や常連さんとのご縁をとても大切にしている気持ちも伝わってきました。今後のコラムも楽しみですし、いつか将来、最終回を迎える時がポン太さんの次のステージの始まりとなるのでしょうね。

社会的困難を抱えた人々の仕事をつくり、自立を応援する社会的企業「ビッグイシュー」が日本で『ビッグイシュー日本版』を創刊したのが2003年。月2回(1日と15日)の発行を続けています。

今回お話を伺い、販売者の方が販売をしっかりと継続することで生活状況をより良い方向へと進められ、また、「ビッグイシュー基金」が自立へ向けてのサポート体制の仕組みを整え続けていることも初めて知りました。販売者の方からビッグイシューを直接買うこと、委託販売店やオフィシャルHPからの購入の他、基金を通じて寄付やボランティアに参加することなどで、ホームレスの方々が安定した生活を取り戻し再び自立ができるよう、応援することに繋がります。

【ポン太さん関連情報】
■ビッグイシュー溝の口販売員Twitter https://twitter.com/PONTA_HANBAI
■ポン太Instagram https://www.instagram.com/ponta.hanbai/

【ビッグイシュー日本関連情報】
■ホームページ https://www.bigissue.jp/
■Twitter https://twitter.com/BIG_ISSUE_Japan
■認定NPO法人ビッグイシュー基金 https://bigissue.or.jp/

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