きょうだいで一番小さく生まれ、心配されたパンダ「彩浜」 今はファンから「社長!」と愛される堂々たる姿に

二木 繁美 二木 繁美

2023年2月に和歌山の永明(えいめい)桜浜(おうひん)桃浜(とうひん)、東京のシャンシャンが中国へと旅立ち、日本には中国に次いで多い9頭のパンダがいます。実はそのうちの4頭がくらしているのが和歌山「アドベンチャーワールド」(和歌山県西牟婁郡)。みんな同じに見えるかもしれませんが、実は個性豊か。身近でお世話をしているパンダチームのみなさんに、パンダライター・二木繁美がお話を聞きました。

第6回となる今回は75グラムと小さく産まれながら、堂々とした態度でファンから“社長”と呼ばれるまでに成長したメスのジャイアントパンダの彩浜(さいひん)をご紹介します。母は良浜(らうひん)、姉は結浜(ゆいひん)、妹が楓浜(ふうひん)です。

パークで一番小さく生まれた彩浜

彩浜は2018年8月14日生まれの現在4歳。メスのパンダの性成熟はだいだい4歳ぐらい。おとなの仲間入りをしたくらいの年齢ですが、動きや表情にはまだ少しあどけない印象を受けます。ふさふさのほっぺの毛がかわいい正面向きの顔は母親の良浜似、ゆったりと歩く姿は父親の永明似と両親の特徴を受け継いでいます。

「彩浜と言えば出産の時が印象的でした」と、語る飼育スタッフ。一般的なパンダの赤ちゃんが平均100〜200グラムで生まれるのに対して、彩浜は75グラムとパークで一番小さく生まれました。

当時の思い出について、飼育スタッフは「出産の手伝いに来てくれた中国の研究員が、主に彩浜のケアをしてくれました。初乳を飲ませるために良浜から搾乳したものを、気管につまらないように1滴ずつ慎重に与えていましたね」と話します。薄い緑色をしたパンダの初乳には赤ちゃんに必要な免疫を作る成分がふくまれており、人工飼育を行う場合も必ず与える必要があるのです。

初日は良浜の乳首に持っていっても、お乳を飲めなかったという彩浜。「小さく生まれたため、もしかしたら彩浜の口が小さすぎて乳首がくわえられなかったのかもしれません」と、飼育スタッフ。体温を保つために保育器に入れられていましたが、生後2日目にやっと自力で母乳を飲むことができ、そこから順調に体重が増えていきました。そして、飼育スタッフたちの懸命なお世話のおかげか大きな病気やけがもせず、健やかで元気いっぱいに成長したのです。

社長と呼ばれる堂々たる姿

彩浜はほかのパンダが気にするような物音もあまり気にせず、どっしりと構えているのだとか。そんな堂々とした姿に、ファンからは親しみを込めて“社長”と呼ばれています。「堂々とした座り方は、彩浜の性格からきているものと思います」(飼育スタッフ)。そこにいるだけでファンに癒やしと安心を与えてくれる、小さな社長なのです。

ふだんはあおむけに寝て、ボーッとしていることが多いという彩浜ですが、活発でちょっと気分屋なところも。遊具で遊ぶのが大好きで、ボールやたまにもらう氷にも興味津々で、遊具の使い方がとてもうまいのだとか。3歳のお誕生日のときも、お祝いにもらった氷に楽しそうにじゃれつき、無邪気な姿でファンと報道陣をよろこばせてくれました。

そして、母親の良浜似だという寝相のおもしろさは、姉の結浜とならぶほど。一度は見ておきたいユニークな姿です。

竹の好みは?

パークで暮らすパンダで竹にこだわらないパンダは左利きが多いといわれています。彩浜は左利きで、竹の好みにはあまりこだわりがないようです。ただとてもせっかちで、急いで竹を食べる習性があり、あちこちの竹に手をつけては、食べ散らかすことが多いそうです。基本は2歳までに親元を離れて、単独で暮らすパンダ。もちろん彩浜も1頭で飼育されています。そんなに急がなくても、だれにもとられませんよ、社長。

無邪気な姿で私たちを笑顔にしてくれる彩浜に、飼育スタッフさんからメッセージをいただきました。「アドベンチャーワールドで生まれ育った子の中で最も小さい75グラムという体重で生まれた『彩浜』。力強く生きる姿に、生命力の強さや命の大切さを教えてもらいました。病気もせずに順調に成長してくれて本当に嬉しいです。これからも竹をたくさん食べて、元気に健やかに成長していってほしいです」。

何を隠そう筆者も社長の大ファン。たまたま遊びに行った日が初公開日だったこともあり、勝手にご縁を感じています。初公開の日には、愛しそうにしっかりと抱っこしていた良浜のすき間から、少しだけ白いものが見えて興奮したのを覚えています。これからもみんなに愛されて、元気で大きくなってくださいね、社長!

【次回(2023年4月11日)は結浜についてお話をうかがいます】

日本パンダ保護協会会員であり、明浜・優浜の名付け親でもある二木繁美による、桜浜を含む日本で暮らすパンダたち13頭を紹介する『このパンダ、だぁ~れだ?』(講談社/講談社ビーシー・1430円)が、2022年12月1日に発売されました。飼育員さんたちのインタビューなど、さまざまな角度からパンダたちの魅力を知ることができます。姿だけでなく、つむじやおしりなどからパンダをあてる、ややマニアックなクイズもお楽しみください。

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