家庭菜園で巨大なネズミのような動物「ヌートリア」が野菜を食べる動画がインスタグラムに投稿され、11万回以上も再生されています。発見された場所から考察すると、ヌートリアの生息地に変化が起きている可能性があります。投稿主と、農林水産省鳥獣対策室にもヌートリアについて聞きました。
投稿したのは島根県益田市に住む堀澤由起子(yukinko0917)さん。カブをむさぼり食う巨大ヌートリアは、堀澤さんがガラス戸を開け、「こりゃ、こりゃ」と声をかけても、全く驚く様子を見せません。人間が怖くないのでしょうか。何度か呼びかけられると、急がず慌てず畑を横切り、隅にあったシンクの下に潜り込みます。しかし、長いしっぽやお尻ははみ出したままなのでした。最終的には、山の茂みにのそのそ入っていったそうです。
投稿には「か、かわいい けど、実害あると困りますねぇ」「でかっ 怖いっ」「しれっと、人の庭にくるんだ!!びっくり~」といった驚きの声が寄せられていました。
ネズミの仲間のげっ歯目であり、農林水産省『野生鳥獣被害防止マニュアル』では、「茶褐色の毛色で、目と耳は小さい。太くて長い毛がまばらに生えた円筒状の尾を持ち、上下2本ずつの門歯は大きく、前面がオレンジ色をしている。後足の第2~5指の間に水かきがある」と形容されるヌートリア。
「人の生命・身体、生態系へ被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるもの」という「特定外来生物」です。さらに同資料では、ヨシやマコモなどの水生植物の茎や根茎や水稲の苗などをよく食べ、「流れが緩やかな河川や湖沼、ため池等の周辺に生息し、水域から離れて活動することは稀」とされています。
実は1日に2度来ていた! 人間を恐れず、食欲は旺盛
――発見したときの様子は?
「10年に1度の寒波が来る前の日ぐらいで寒かったです。近所に住む叔父の家庭菜園で、私の家の居間のガラス戸を開けてすぐのところです。丸々と太ったヌートリアでした」
――川など水辺近くに生息すると言われていますが、近くにそういったものは?
「近くには湖や川や池や田んぼもありません」
――これまで、ヌートリア以外でも動物が畑を荒らすことはありましたか。
「そんなにはないです。カラスがキュウリやトマトを持っていくことがあるくらいです」
――どんなふうに畑を荒らしていったのですか。
「インスタグラムに投稿していたのはその日の午後で、午前中にも来ていて大根の茎をかじっていました。かじられたのは1本だけなのですが、叔父に伝えると、植えてあった大根をすべて抜くことになりました」
――動画を見るとネットが張ってあるのですが、それでもヌートリアは出てきたのですか。
「ネットは一度目に来た後で張ったものです。追い払うと畑のそばにある溝に隠れました。頭は隠していましたがしっぽは丸見えでしたね。そこから畑に出てこれないように網とブロックで塞ぎました」
――対策はされたのですね。
「はい。でも、どうやって隙間から出たのかわからないのですが、午後にはまたやってきてカブを2本抜かれました。同じ畑にあったネギやタアサイは無事でした。大根やカブも、実ではなく茎の部分だけ食べるんです。カブの実の部分はかじられてないので、私たちで食べました」
――威嚇したり、噛みつこうとしたりなど、怖い反応はありませんでしたか?
「全然なかったです。動画には映ってないのですが、畑から出ていかないので棒でお尻をつつきました。でも、全く動じなかったです。ヌートリアについては調べていて、追い詰めると噛みつくということは知っていました。畑に出た叔父と遭遇して、噛みついたりしてはいけないので。つついて追い出そうとしているうちに、のそのそと山の方に逃げていきました」
山の茂みに隠れてしまったヌートリアは、その後、出てくることはなかったそう。堀澤さんはもう1度出てきたら住んでいる益田市に相談に行こうと考えていると言います。2度もひと気のある家庭菜園に襲来して大根やカブの茎をかじったヌートリア。食への執念と人間に対する恐れのなさがうかがわれます。また、大根やカブの茎は食べるけれど、独特の辛味のあるネギなどには手を付けないというところに、食べ物の好みがうかがえました。
減少傾向にはある農作物被害額
ヌートリアの目撃の増加や生息域拡大についてニュースで報告されますが、現状はどうなのでしょうか? また、個人で所有している小さな家庭菜園を守る方法は。農林水産省鳥獣対策室にたずねてみました。
――ヌートリアの農作物の被害について、近年はどのような傾向に?
「ヌートリアによる農作物被害につきましては、近年、減少傾向にあり、直近データの令和3年度の農作物被害額は、全国で約4700万円となっています。特にイネや野菜への加害が多い状況です。ヌートリアは、南米原産の大型のネズミで、日本には戦時中に毛皮採取を目的に輸入され、その後、野生化したと考えられています。現在、外来生物法で「特定外来生物」に指定されています。南米原産ということもあり、山陰地域や東海地域などの西日本を中心に生息しています」
――なぜ減少傾向にあるのですか。
「駆除や食害を防止するなど各地域での対策の効果によるものと考えています」
――今回のように溝や側溝に沿ってヌートリアが移動したという例は、報告されていますか。
「溝や側溝に沿って移動したという例は承知していませんが、ヌートリアは、河川、湖、沼、ため池などの水辺に暮らし、周辺の堤防や地面に複数の巣穴を掘り、被害を及ぼすので水辺から大きく離れることは稀で、行動域は巣穴を中心とした流域の約1キロメートル程度と言われています」
――ヌートリアによる家庭菜園への被害を防ぐために、個人ができることは?
「ヌートリア対策としては、田畑周囲の草を刈り払い、見通しを良くすることと、巣穴がある場合は、巣穴周りの草刈りを行うことが効果的です。また、金属柵や電気柵などの侵入防止柵で農地を囲うといったことも有効です。
なお、捕獲が必要な場合もありますが、野生鳥獣の捕獲は原則禁止されていますので、特定外来生物のヌートリアを捕獲する場合は、外来生物法に基づく『防除許可』又は、農林水産業に被害を及ぼす鳥獣の捕獲として、鳥獣保護管理法に基づく『捕獲許可』が必要になります」
――農林水産省鳥獣対策室から、今あらためて伝えたいことは?
「今回、ヌートリアについてのお問い合わせでしたが、シカやイノシシなどの野生鳥獣による被害対策としては、大きく分けて『個体数管理』(オリ、ワナ及び猟銃による捕獲)、『侵入防止対策』(侵入防止柵の設置や追払いなど)、『生息環境管理』(放任果樹の除去、耕作放棄地などの鳥獣のエサ場や隠れ場所の刈り払いなど)の3つの対策があります。加害する鳥獣の種類や被害を受ける農作物など、地域の被害状況に応じて、これらの対策を適切に組み合わせながら『地域ぐるみ』で対策を実践することが重要です」
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ヌートリアの食害は、金額に換算すると平成20(2008)年度が最大で1億2千万円超、面積では最大700ha(平成12年度、平成18年度)報告されていましたが、最新(令和3年度)で約4700万円、100haと、農家や自治体の努力により一時期よりも減ってきてはいるようです。しかし、未だ続く被害をゼロに近づけるためには、草刈りや柵の設置といった個人の努力と同時に、自治体と協力して行う環境の整備や捕獲なども欠かせません。
投稿者の堀澤さんに確認すると、線路と山を越えたところに田んぼだけがあり、ぎりぎり1キロ圏内とのこと。「水辺から大きく離れることは稀」だというヌートリアがなぜそこにいたのか。もしかすると、駆除などの対策がすすみ、水辺を離れて生息地が変化をしてきている可能性も捨てきれません。発見した際は決してご自身で対処することなく、市役所や保健所などの自治体に相談を。
■堀澤由起子(yukinko0917)さんのInstagram https://www.instagram.com/yukinko0917/
■ALSP-14「あいのかたち」プロジェクト https://alsp14.com/touyoubijin_ainokatachi/
堀澤さんは、澄川酒造場(山口県)が手掛けた「東洋美人」という銘柄の日本酒『あいのかたち』(4月1日発売)の収益の一部が、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を含む神経難病の根治薬、完全抑制可能薬の開発などに寄付される、ALSP-14「あいのかたち」プロジェクトを応援しています。
■農林水産省ホームページ 野生鳥獣被害防止マニュアル-アライグマ、ヌートリア、キョン、マングース、タイワンリス(特定外来生物編)-平成22年3月版
■農林水産省ホームページ 全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和3年度)