ツイッターをたしなむ奈良県民なら、一度は投稿を目にしたことがあるバズを連発するアカウント「卑屈な奈良県民bot」(@nntnarabot)さん(以下、卑屈さん)。奈良県のあるあるネタやプチ情報を大阪や京都には負けじと強い郷土愛(奈良愛)を持ってツイートし、ちょっぴり都会への羨望感からたまに卑屈っぽくなるのもご愛嬌だ。
中の人1号(@xxbakkii)と2号(@aonimaru_games)の男女2名で共同運営され、今回は、中の人2号のあをにまるさんに伺った。まずは、少し前にバズった奈良あるあるネタはこちらだ。
友人「奈良の鹿は神様の使いとちゃうんか? なんで道の駅に普通に鹿肉の缶詰が売られとるんや?」
ワイ「奈良公園におる鹿は神の使いで特別天然記念物やが、保護区外で畑を荒らす鹿は堕天した悪しき神やから最早カレーの具以外の何者でもない」
友人「ゴールデンカムイかよ」
そう、皆様ご存じの奈良公園の鹿は、国の天然記念物であり野生動物。さらに、公園の一部が境内地の春日大社では、奈良時代に御祭神「武甕槌命(タケミカヅチノミコト)」が常陸国(茨城県)から白鹿に乗りやって来たとされ、神様のお使いである「神鹿」として大切にされている。
しかし、神鹿であっても保護区を出てしまうと害獣として捕獲・駆除されてしまうことも。特に奈良市東部の山間部では農作物を食い荒らす鹿の被害が深刻化し問題になっている。
このことを週刊ヤングジャンプで連載中の話題の漫画『ゴールデンカムイ』(集英社/野田サトル著)に絡めて、ユーモアたっぷりに呟き、1.3万リツイート、2.9万件のいいねが付く注目を集めた。
ちなみに『ゴールデンカムイ』は、明治末期の北海道や樺太など北大地を舞台にアイヌの埋蔵金をめぐって主人公・杉元佐一らがバトルを繰り広げるサバイバル漫画。ヒロインのアイヌ人少女・アシㇼパが作中で披露するアイヌのジビエ料理(狩猟料理)も人気を集めている。
そのため、リプライでは「鹿・・・仕方(シカた)ないのかな」「堕天しか。」などの大喜利だけでなく、(鹿カレーに対して)「オソマッ!」(※アイヌ語で大便をする、うんこ)、「食べられるウェンカムイですね」(※ウェンカムイ=アイヌ語で悪い神)「ヒンナヒンナ」(※ヒンナ=アイヌ語で感謝、漫画ではおいしいの意味で使用)など、作中でアシㇼパが発するアイヌ語が溢れ、奈良アカウントなのに北海道アカウントかと勘違いするほど、ゴールデンカムイ祭り状態の反響を得ていた。
フォロワー数はせんとくんよりも上!
さらには、この缶詰が販売されていたのは奈良県天川村の直売所「小路の駅 てん」であることや、おいしい鹿肉の食べ方まで伝授した。
このように歴史パロディやユーモア溢れる語り口で、奈良を中心とした関西圏に多くのファンを持つアカウントに。そのフォロワー数は4.3万人。奈良県公式マスコットキャラクターで知られる「せんとくんのつぶやき【奈良県公式】」が1.8万人なので、倍以上のフォロワー数を誇る。
一体どんな人物なのか?そして、バズるほどの奈良あるあるネタとはどんな内容なのか? その秘密に迫ってみた。
――こちらは、ネタとして創作された会話なのでしょうか?
あをにまるさん(中の人2号)「いえ、前半部分は私の友人が言っていた内容におよそ相違ないです」
――なんと、実際にあった出来事なのですね! 一番印象に残った反応はありましたか?
あをにまるさん「まるで落語の『鹿政談(しかせいだん)』みたいですね」というようなリプや引用RTを幾つか頂いたのが非常に印象的で、共感できるものでした」
――古典落語の『鹿政談』ですか。奈良の鹿はかつて手厚い保護がなされていて、叩いただけでも罰金、殺そうものなら、死罪など最高刑だったという内容の…。
あをにまるさん「僕も桂米朝さんの『鹿政談』が大好きで、これはかつて神獣たる奈良の鹿を殺した者は死刑とされた時代に、豆腐屋の主人がキラズ(卯の花)を盗み食いしに来た鹿を誤って殺してしまうのですが、この豆腐屋の主人が真面目で働き者だったため、慈悲深い奈良のお奉行様は彼を何とかして助けようとする、というお話です。
その一節にある、『いかに神鹿たればとて、他人の物を盗み食らうは賊類にして神慮にかなわん。打ち殺しても苦しゅうないと奉行心得る』という米朝さんの語った奉行のセリフはまさに、奈良公園の鹿は古くから人々に愛され大事にされてきた神様の使いでありながらも、一方で天川村をはじめとする奈良県南部などでは毎年鹿による農作物の被害が多く発生し、農家の方々を困らせているという、この現代においてもどこか通じる鹿の二面性を含んだお話だと思いました」
「奈良に住みたいと思ってくれる方が増えたら」
――新たな奈良ネタをねじ込んで語っていただけるとは!本当に奈良への愛が深いですね。お2人は、奈良県生まれ奈良育ちの生粋の奈良県民なのでしょうか?
あをにまるさん「…我々個人の氏名、職場の情報などについても基本的に非公開で活動させて頂いておりますので…」
――なるほど、「一体誰なんだろう」というミステリアスな感じが多くの人を惹きつけているのが分かります。では、なぜこのアカウントの運営を始めたのでしょうか?
中の人1号「バイト中に何となく面白いかなあと思って始めました」
あをにまるさん「もともとはイラストが得意な中の人1号こと、ばっきーぬがこのアカウントを創始したのですが、その直後に私が乗っかって男女2名による共同運営アカウントと化しました。開始当時はお互いナウでヤングな学生だったため、奈良の高校あるあるネタなどを自動ツイートで紹介するアカウントでした」
――アカウント名にbotが付いているのは、その名残だったのすね。
あをにまるさん「フォローして下さる方が増えた現在は『みんなが笑えるようなユーモアを添えて、奈良の魅力をより多くの人へ発信したい』という気持ちを持って日々ツイートを考え、運営しております」
――確かに卑屈さん達のツイートで、関西における奈良県の立ち位置や事情、奈良あるあるを知ったという県外民の反応を見かけました。今後、成し遂げたい野望は?
あをにまるさん「奈良の若い人たちは、高校や大学卒業後と同時に県外へ出て行ってしまう方が多いのですが、これからは大人になってからも奈良に住みたいと思ってくれる方が少しでも増えるように、このアカウントが若い人にとって地元である奈良を更に愛せるようなきっかけの一つとなれば良いなあと思います」
――私(筆者)も奈良県民なので分かりますが、確かに進学や就職で大阪や京都へ出ていく若者が多い県ですよね。それだけ大阪と京都が距離的に近いからなのですが…。
奈良VS京都、実はライバル同志!?
実は近年になって、卑屈さん達に戦いを挑むべく!?強力なライバルアカウントが登場した。みえっぱりな京都人bot(@kyoutojin_bot)(以下、みえ京さん)さんだ。京都人らしいはんなりとした口調で、卑屈さん達奈良県民に絡み、そのやり取りは、まるでプロレスの如し。両者それぞれを応援するファンもいるほどだ。
ちなみに、何の因果かどちらのアカウントも男女混合の複数運営アカウントである共通点を持っている。
――みえ京さんが一方的に卑屈な奈良県民さんに絡んだと言っていましたが、初めて絡まれた時のお気持ちを教えて下さい。また、みえ京さん達の存在をどのように思っておられますか?
あをにまるさん「歴史的にみても京都は奈良の後に出来た都ですので、懐の深い奈良県民の私としては、『まあ京都なんて奈良の弟みたいなもんだし、寛容な精神で許してやろうではないか!わっはっは!』程度の気持ちでした。
しかし『歴史は繰り返す』とローマの歴史家クルチュウス=ルーフスも言っていた通り、最近では京都botが短期間でメキメキとフォロワー数を増やしておりまして、史実のようにいつか人口(フォロワー)が追い抜かされるのでは…と今さら戦々恐々となっております。
――そう言えば、みえ京さんも少し前にバズってヤフーニュースにも掲載されたり、関西あるあるネタアカウントナンバーワンの座を狙っているようにも…そういえば、奈良と京都で京奈南北会談もされたとか?
あをにまるさん「あ、南北会談で京都人botと飲んだ酒は楽しくて最高に美味でしたよ。〆のメニューがお茶漬けだった点が若干気になりますが」
――お茶漬けとは、さすが京都人ですね(笑)。でも、なんだかライバルというより、奈良と京都は仲良しな感じがして、ちょっと嬉しくなりました。最後にせっかくなので、奈良をここぞとばかりにアピールしていただけたら
あをにまるさん「現在私、中の人2号こと「あをにまる」は、奈良を舞台にしたコメディ小説の執筆や、奈良をテーマにしたゲームのリリースなどを絶賛行っておりますので、そちらの活動もこれから一層進めて参りたいと思っております!つきましてはぜひ一度、Twitterのプロフィール欄や上記個人アカウントより我々の作品をご覧頂けるとたいへん嬉しく存じます!!!!(←露骨なCM)というわけで今後ともどうぞ、当アカウントを宜しくお願いいたします!」
◇ ◇
若い人たちが地元の奈良県を愛せるきっかけになればとの思いの通り、奈良を舞台に、ごく普通の女子高生・小野妹子が聖徳太子らと恋愛する乙女ゲーム「なら☆こい」の開発がニュース記事になるなど、更なる躍進を続ける卑屈さん。その一方で、みえ京さんはライターデビューするなど、お互いが切磋琢磨しながら成長していく姿をツイッター上で応援してみてはいかがだろうか? 卑屈さん達の大活躍ぶりから、奈良県が再び日本の中心地になる日も近いかもしれない。
■卑屈な奈良県民bot https://twitter.com/nntnarabot
■みえっぱりな京都人bot https://twitter.com/kyoutojin_bot
(まいどなニュース/Lmaga.jp特約・いずみゆか)