義足で散歩する若者「当たり前の光景になって」 動画を投稿した義肢装具士と義足ユーザーに聞いた

渡辺 陽 渡辺 陽

私たちは、誰もが思わぬ事故や病気で手足を失うことがあります。そんな時、頼りになるのが車椅子や義足、義手。義肢装具士の義肢づくりの人生さん(@prosthetist_and)(以下、Gさん)は、「2023年これくらい当たり前の光景の1つになっていいと思うんです」と、動画を投稿しました。

義足を装着した2人が当たり前のように街中をお散歩している光景。動画を見た人からは、

「リハビリ専門職の人間として、歩き方が本当に綺麗。踵接地、重心移動、股関節伸展から体幹の使い方まで…まさに血の滲むような努力があったはず。心から敬意を表します。『隠せ』なんて声もありますが、医療職としても当たり前になって欲しい。これを作り上げている技術者のみなさんも本当に凄い」

「低下した身体機能を道具で補助しているという意味では、メガネをかけている人と変わらないんですよね。義手も義足も眼鏡くらい当たり前の世の中は近いかもしれないです」

など、さまざまな声が寄せられ、動画再生回数は54.5万回、「いいね」は1.7万回にもなりました。

Gさんに取材を申し込んだところ、動画に登場しているお二人、りょーさんと柊子さんもお話に加わっていただけることになりました。

—義足で歩くのは、まだ「当たり前の光景」ではありませんか。

りょーさん「義足に限らず、マイノリティの人たちが自分のしたい格好、ありのままの状態で気兼ねなく普通に生活できる世界を目指すべき『当たり前』とすると、今がその世界と極端に違っているとは思っていません。それは投稿のツリーの中で肯定的な意見が非常に多かったことからも感じています。一方で『どう接したらいいのかわからない』といった意見もあるため、まだ完全に当たり前の世界とは言い難いのだと思います」

柊子さん「周囲の人たちが私の義足を見た時にどう感じているかは分かりませんが、私は好きな服装をして自分の足で歩いているだけなので、特別なことだとは思っていないです」

Gさん「この光景が本当に当たり前と思える世の中になるには、まだ課題があると感じています。技術的な理由や社会的な理由で、2人のように街を自由に闊歩できない人も確実に存在します。また、私が当たり前の光景の『1つ』と書いたのには理由があって、『誰もが2人のように義足を隠さず、むしろファッションの一部として楽しめばいい』と押し付ける意図はありません。見せたい人は見せればいいし、見せたくない人は見せなければいい。本人の自由であるべきです。大事なのは、多様な価値観や選択肢が認められていること。1つの物差しで測らず、『色んな人がいるよね』という、それこそ当たり前の感覚が根付いた社会であってほしいと願っています」

—とてもスムーズに歩いているように見えます。

Gさん「2人は本当に上手です。怪我や病気、年齢など、その人の状況によっては歩くことが難しい場合もありますが、一般的に、大きな問題がない場合は2〜3カ月、入院してリハビリを行います。より多くの人にとって義足で歩くハードルが下がるよう、医療専門職やエンジニアなどは、技術やリハビリの質を高めることに努めています」

—高価だというリプもありました。

Gさん「現在の義足は多くの既製の部品を組み立てて作られていますが、その部品が基本的に少量多品種生産であることや、組み立てる工程や身体と密着させる部分などを、一点一点その人に合わせて製作するため工程が多く、価格はかなり高額です。ほとんどが数十万、電動やコンピューター制御の部品を使うと数百万にもなります。ですが実際には、使用者の負担は最小限に抑えられるよう、国によって定められた社会保障制度が複数あります」

—車椅子より生活の質上がりますか。

Gさん「義足でだんだん歩けるようになってくると、その人の生き方まで花開いていくように感じる場面が多々あります。一方で、条件によっては義足を使えず、車椅子のほうが行動範囲が広がる場合もあり、それは不便かもしれませんが、必ずしも不幸を意味することではないと思います。車椅子を使ったり、義足と車椅子を併用したりするというのも1つの手段です。大事なことは、その中で本来の目的である、その人にとっての豊かな生活と人生を探すことだと感じています」

—これから何をしたいですか。

りょーさん「もっと沢山の人に義足で歩く姿や普通に生活する姿を見てもらい、いい意味で義足に慣れてもらいたいと思います。また、義足で歩くことが困難な人がいることも知ってほしい。そういった発信を続ける中で、義足だけでなく車椅子や装具を使う人に対する関心が生まれて、様々な問題や障害を抱える人にとっても住みやすい世界になってほしいと思います」

柊子さん「あくまで個々が自分の好きな自分で堂々と居られたらいいよね、障がいの有無に関わらず、十人十色の生き方があってそれを全て受け入れるのは難しいかもしれないけど、否定しない世の中になると素敵だと思います」

Gさん「今回投稿に多くの反響があり、たくさんの人に関心を持っていただけたことを3人で喜びました。一言で『義足の人』と言っても、本当に色々な背景を持った人がいることに想いを馳せていただけるとなお嬉しいです。見せたい人も隠したい人も、人それぞれ。それは義足の人に限らず誰だってそうですよね。障がいがあってもなくても、誰もが生きづらさを感じない、それぞれの幸せを見つけられる社会に近づくため、義肢づくりを通して見える世界のことを今後も発信していきたいです」

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